小島一文の
“G1フィッシング”

G1フィッシング

磯釣師、川へ遡上G杯アユに初挑戦

うっとうしい梅雨がきた。一般的には毎日じめじめと蒸し暑く、気分まで落ち込んでしまうのがこの時期。しかし、自然にとってはこの梅雨前線がもたらす雨が恵みとなって生命を育む。自然相手に楽しんでいる私たち釣り人にとっても恵みのときであり、このように考えればうっとうしい梅雨もへっちゃらだ。

アユ釣り解禁に心ときめく
 6月1日、高津川鮎解禁のニュースが仕事場の昼休み、テレビの画面から飛び込んできた。わずか数分のニュースだが20センチ前後に丸々と成長した若鮎を次々に抜き上げるシーンが映し出された。地元の釣り師は「今年は例年になく型がいいですね」とインタビューに答える。
 今までにもこのようなシーンは何度となくあったはずだが、磯釣り専門の私にとってはさほど関心事ではなかったのだろう。しかし今はちがう。このニュースを食い入るように見ている自分がそこにあり、その瞬間から気持ちがドキドキ、ドキドキしてしょうがないのだ。それもそのはず、6月5日に高津川で開催されるG杯アユ予選に初エントリーしていたからである。
 私にとってアユ釣りは今年から本格的にはじめたといってもよい。昨年のシーズン終盤、同じクラブのメンバーから誘われて何度か江の川に足を運んだが、このときは竿、仕掛けなどの道具一式から身に付けるタイツ、ベストにいたるまですべてを借りてのことである。昨年の江の川は「今年は異常」とベテランたちがいうようにアユの数が非常に多く、まったくの素人の私でも少し慣れてくると1日、40、50と掛かるのである。しかも磯釣りとはまったく異なった釣りイメージがなんとも新鮮だ。やれば「夢中になるだろうなー」と予想していたとおり私はアユ釣りの魅力に取り付かれてしまった。

まさに1匹1匹がG1な1匹
 ここでアユ釣りと言うのは、同じアユをおとりに使う「友釣り」のことを言う。私が夢中になるのもアユを餌や毛ばり、ルアーで釣るのではなく、一定の縄張りを持つアユの習性を利用し同じアユをおとりとして使う友釣りだからだ。今までやってきた釣りでは、一度取り込んだ魚は自分の獲物としてクーラーかビクに納まってしまうのだが、友釣りでは今掛かったアユが今度は自分のパートナー(おとり)となってさらに次のアユを獲ってきてくれる。この魚と人との関係がなんとも新鮮だ。私がよく使う表現に「G1な1匹」というのがあるが、一回の釣行でその日一番の大物やイメージどおりに釣った1匹、いくら小さな魚でもそのときその状況で釣れた価値ある1匹など釣り人それぞれには、グレード・ワンな1匹があるものだ。そして友釣りは循環の釣りと言われるように、おとりが次々に新しく入れ替わって釣果を伸ばしていく釣りだけに、おとりが途切れてしまったらそこで釣りが終わってしまう。トーナメントの時などは別として、たかが20センチ足らずの魚をバラシてこれだけ悔しい思いをする釣りも私にとっては新鮮なイメージだ。だから友釣りでは魚の大小にかかわらず1匹1匹が非常に貴重で、まさにその1匹1匹がすべて価値ある1匹であり「G1な1匹」なのだ。

尺アユの引きは尾長の60センチクラス
 次にアユの引きの強さだ。今までにもたくさんの方からアユ釣りをすすめられていたのだが、たかが2、30センチの魚を釣ってどこにそんなに釣味があるのか。そんな思いで高をくくっていたところがあった。ある人が「流れの速いところで30センチ近いアユを掛ければ、60センチ級の尾長グレを本流で掛けたときと同じぐらいの衝撃だ」という話を、私は腹の中で、「そんなことあるものか」とバカにしていたところもあった。しかしその思いは最初の1匹から打ち消された。まずは掛かったときの衝撃がすごい。昨年、はじめてのアユ釣で記念すべき最初のアタリは、ゴゴーンときたあまりにも強い衝撃に反射的に体が反応してビッシっと強くあわせてしまって仕掛けがプッツン。竿先を見上げれば残った糸がひらひらと笑っていた。「なんじゃこれは」と思わず叫んだ。それから体験するアユの引きは私をとりこにするには十分だ。掛けた瞬間は流れに任せて下流に逃げ込む。少しでも竿の角度が悪いと、のされた状態で細い仕掛けはひとたまりもない。リールの糸を逆転するわけにもいかないから自分の体を下流に走らせて体制を整えるしかない。今度は竿を立てて取り込みに入るが、スレで掛かったアユは流れを受けてなかなか浮いてこない。こんなにすごいとは思わなかった。20センチの魚体がやたら大きく感じる。私の感覚だとチヌ・グレなら40センチ級に匹敵するくらいか。おそらくまだ経験したことのない尺アユと呼ばれる30センチ級になれば、60センチの尾長グレと同等の価値は十分あるだろうと思う。

アユ釣りは高い
 私がアユ釣になかなか取り組めなかった理由のひとつに「アユ釣は高い」というイメージがあった。道具類が高価で磯釣のうえにアユ釣までやったら破産してしまうのではないかという心配だ。確かに竿1本が10万円以上してしまうアユ釣のタックルは高価なものが多いが、それらは一度そろえてしまえば長く使えるものが多く、日々の釣はすごく安上がりなことがわかった。アユを釣るにはその川の管理漁協へ入河川料を支払わなければならないが、これも年間券(7,000円から10,000円くらい)を一度購入しておけば何回でもOKだ。あとは釣行時におとりアユ(1匹500円くらい)を2匹程度購入すればすぐに竿を出すことができる。連日竿を出す場合は、当日釣ったアユを工夫して生かしておけばおとり代もいらない。私も今年、アユのシーズン前にボーナス払いでタックル一式を買い揃えた。私たちサラリーマン釣師にとっては大きな出費になったが、楽しみにはある程度の投資も必要なわけで、その投資の大きさがその楽しみを倍増させることにもなる。どちらかというと磯釣のオフシーズンが最盛期のアユ釣は、6月から10月までの期間限定で、他の釣と共に年間を問わずこれから何度となく「少年の心」にしてくれるのであるから、私にとってこの投資は何倍にもなって返ってくることだろうと思う。  

なんにでも最初があり始まりがあるのだから
 さー、やるとなったらとことんやらないときがすまない性格な私は、私にアユ釣を教えてくれたいわば師匠である飯塚宏行君(出雲市:G1トーナメントクラブ)と共に、無謀にもG杯アユ釣選手権中国大会(6月5日:高津川)に初エントリーした。釣暦は0年、今シーズンはまだ2度しか竿を出していない。出場選手約70人。おそらく今大会出場選手の中でアユ釣暦、釣行回数は私が一番少ないのではないだろうか。大会本部となった島根県日原町の道の駅には、アユ用のタイツとベストをビッシと決めた参加者たちが次々と集まってきた。その中には磯釣で顔見知りの人やGFGの会員なども何人かいて、早々にあいさつを交わす。「あれ、来るとこがちがうんじゃない」、「アユ釣もやるん」「今日は竹下ウキの何B使うん」みんなからさんざん冷やかしを受けて、なんだか照れくさい。今回の出場は、まず大会の雰囲気になれることが目的だ。集合して、受付、抽選、選手の送り出し、ポイントの設定、他選手の雰囲気・駆け引き、審査、表彰とトーナメントでは日程の一連の流れを知ることが大切だ。釣り自体の経験や技術は無くても実際に参加しなくては、この雰囲気は味わうことはできない。1匹も釣れないのは覚悟のうえで何も恥ずかしいことではない。何か事を起こすには、誰もが最初があり始まりがあるのだから、失敗を恐れることはない。飯塚くんも私もボロボロになって帰ってくることを覚悟しての出場である。だからといって何も失うものはない。そして私たちの最大の強みはまったくのゼロからのスタートなので、誰にでも、何でも聞けることだ。聞いたことは何でも素直に入り込んでくる。時にはこれが経験のない者の最大の武器になる。前日から下見に入っている選手から川の情報を聞いたり、最近の釣況を地元の選手から聞いたりもする。その他わからないことは、とりあえずは経験のある人から聞く方がっ手っ取りばやい。何でも何でも聞くことが大切だ。また、聞く相手も経験や実績のない私たちには、なんでも正直に教えてくれる。こういう状況は何時までも通用するとは思わないが、今だからできることを何のためらいもなく実行に移せることが大切だ。仕掛けは、最初に教わったワンパターンしか知らないので、とりあえずはそれを信用して使うしかない。

大会ルールはいたってシンプル
 アユ釣りの大会ルールはシンプルだ。競技範囲は大会本部を中心に上流の橋から下流の橋までの約2キロ。目印に「がまかつ」の桃太郎旗が掲示してある。抽選の順番に川原でおとりのアユ2匹を受け取って、受け取った者から直ちに各選手が思い思いのポイントへ移動し釣りを開始する。予選は午前7から午前11時までの4時間で午前11時までに本部へ到着していなければならない。審査は釣ったアユ(おとりも含む)総匹数。サイズに規定はない。いくら小さくてもアユなら貴重な1匹だ。予選通過者は上位15位タイまで。決勝は予選と同じ行程で時間は12時から午後2時までの2時間。上位5人までが西日本大会(7月22日・23日:兵庫県揖保川)への出場権を得る。決勝戦は同引数の場合ジャンケンで決することになっている。

川の変化を求めてポイント設定
 私の抽選番号は24番。24番目にスタートすることになる。先輩からのアドバイスで本部よりも下流がよいだろうと聞いていたので、何の迷いもなく下流へと向かった。やはり下流に好ポイントが多いのか先人たちも下に下る選手が多い。さて最初の難関は自分でポイントを設定することだ。予選では、限られた範囲にたくさんの選手が散らばるので、最初に設定したポイントから広範囲に移動することができない。だから自分が選んだポイントで辛抱して釣り込まなくてはならないことをベテラン選手から聞いていた。最初のポイント選びが重要だ。ここで私のポイント選びの決め手になったのは、昨年度G杯がま鮎選手権大会において見事全国制覇した大歳一郎氏のアドバイスだ。私の質問は単純だ。「今ここ(今回の競技範囲)でどこが一番いいんでしょうか」。さすがに大歳氏も「ここだ」という具体的な場所は言わないが「小島くん、海と一緒だよ。今は川に変化があるところにアユがいるんだ。海でも潮のよれとかサラシでできた流れの変化を狙うだろ」とのアドバイス。とにかく変化のあるポイントを求めて川を下った。番号の若い他の選手たちは点々とポイントを設定し竿を伸ばしはじめている。ポイントを求めて下っているとある箇所がスーッとズームアップするように目に飛び込んできた。「ここだ」。幸いにも他の選手がまだ入っていない。私の目には周辺で最も変化があるようにその地点が見えた。私は何の迷いもなくそのポイントに吸い込まれていった。変化といってもいろいろあるが、水深の変化、流れの変化、川底の変化、特にコンクリートのテトラが点在し複雑な流れを作っていた。不思議なもので肉眼ではまったく見えないのだが、川底でアユが群れている光景がイメージとして頭に浮かぶ。「いい感じだ」。

 

驚き倍増、まさかこんな結果に・・・
 イメージどおりのポイントも決まって釣り開始である。しかし慌てることはない。これも情報として聞いていたのは、朝一番は掛かりが悪いということ。4時間あれば後半の2時間で釣るくらいでよいと聞いていたので、立ち込んだまま竿も伸ばさずしばらくは周辺の様子をうかがった。周辺で誰かが1匹でも掛けたら準備しようと高ぶる気持ちを落ち着かせた。7時20分、上流で1匹掛かったのが見えたので準備に取り掛かる。おとりのセットが完了してG杯初挑戦が始まった。イメージしていたテトラの下へおとりを誘導していくとすぐにアタリが出た。あまりにもの早掛かりに自分自身が驚きながらも慎重にタモでキャッチ。「ありゃ、こりゃなんじゃ」。初ヒットはなんとウグイではないか。「しかし待てよ」と・・・。もし、おとりがだめになって最悪のときはこのウグイをおとりに使おうと大切にキープして、もう一度同じポイントにおとりアユを送り込んだ。するとまたガガ-ンときた。今度はアユか・・・。竿でためて引き抜こうとしたが、なんとタモの手前でバウンドして無情にもハリが外れてバラシ。おとりが養殖から天然に変わる大切な1匹だけになんとも悔やまれる。大事に大事にいこうという気持ちが抜くタイミングをよけいに狂わすのか。経験不足の何ものでもないミスだ。しかし単純なミスでここからまた2匹連続でバラスことになる。同じように手前でバウンドしてこれで合計3匹連続のバラシである。冷静になって考えてみるとどうやら竿と糸の長さとのバランスも悪いようだ。いわゆる糸の「ばか」の部分が長すぎたのだ。このへんが素人である。天上糸が移動式になっているので、いったんおとりをはずして調整し、本部でもらった2匹のおとりの内、弱ったおとりを選手交代して釣りを再開した。狭い範囲ながら上流に下流にと小刻みに移動しながらおとりを送り込んだ。そして待望の1匹目をキャッチ。20センチはあろうかという丸々と太った若鮎を取り込んだ。「やった」。おとりが天然アユに代わり次々に掛かってきた。ぎこちないながらも手返すリズムもだんだんよくなってきているような気がする。あれからはバラシもない。そしてイメージもよくなってきた。先が読める。「次はあそこを攻めよう」、「その次はあそこだ」と今釣っている箇所の次がイメージできる。驚くのはこの読みが次々に的中してイメージどおりの箇所でヒットしてきた。予選の結果、私は12匹(おとり込み)の釣果で15位タイ、ぎりぎり予選を通過してしまった。どのくらい釣れば予選通過ラインなのか、まったくわからないままただ無心で釣った結果だ。周りの驚きもそうだが自分自身が一番驚いた。そして午後から行われた決勝、その驚きがさらに倍になる出来事が起こった。抽選で今度は2番くじを引いた私は、迷いもなく真っ先に予選のポイントに入った。狙いは的中。コンスタントに釣果を伸ばし決勝でも12匹を釣り、なんとなんと初出場、初優勝を手にしてしまった。

磯釣り経験生かして・・・
 今、冷静になって何が良くて、何がうまくいったのか分析してみるのだが、経験のない私にはそれすらよくわからない状態だ。ただ、今の時点で言えることは磯釣りの経験が何らか活かされたのは事実である。いたる場面のたくさんの要素がそうなのだが、特に私がイメージするところは、アユのおとり操作とグレ、チヌ釣りのふかせ仕掛けを流すイメージに共通点が多いということだ。今大会のポイントでのおとりアユに与えるテンションのかけ方は、私が磯で愛用している竹下ウキ(管付ウキ)の道糸を張らず緩めずで流す感覚といっしょである。さらにふかせ釣りのウキ、あるいはアユ釣りの目印の状態からそれぞれ付け餌、おとりが水中の中でどのような状態になっているのかをイメージする点も同じである。磯ふかせ釣りで道糸を風や波にはらませ、仕掛けにわずかな張りをかけたとき、それが誘いとなってグレが食いついてくる感覚とまったく同じである。おとり操作の基本である「穂先はピン」、「目印キープ」だけを心がけていたのだが、この操作の感覚が竹下ウキの操作のまさにそれなのである。

 今度は7月に開催される西日本大会が目標となった。いくら経験、実績はなくてもせっかくいただいたチャンスはチャンスだ。一生のうち一度あるかないかのチャンスなのかもしれない。やるからにはとことんやりたい。当分は遡上したまま海に戻れそうにないが、目指すはG杯アユ全国出場だ。

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