小島一文の
“G1フィッシング”

G1フィッシング

私の釣り人生。(後編)

ミレニアムから21世紀へ「竹下ウキ」との出会い(後編)

 先月号では、竹下ウキとの出会いを紹介しながら、そのウキが持つ特徴を説明させていただいた。今回は、このウキが持つ特徴を生かした私独自の釣りイメージを紙面で展開してみよう。まずここで断っておかなくてはならないのは、これから紹介する釣りイメージは、あくまでも竹下ウキの「使い手」である私自身の釣りイメージであって、それは必ずしも制作者である竹下氏本人の釣りイメージと同じものではないということ。それはどんな道具を使う場合も同じであり、それぞれ使い手には使い手の、10人いれば10通りの使い方がある。

独創的なボディー形状に威力の秘密が・・・

 さて、私は竹下ウキの特長を九つ挙げているが、最初からこのような特長を見いだしていたわけではない。最初は「よく飛ぶウキだな」、「波乗りの良いウキだな」という程度の感じしかなかったが、それが使い込む度に新しい発見があり、新しい釣りイメージが膨らんでいったことを思い出す。その中でも特筆したいのが、独創的なボディー形状と道糸を張ると海中に沈んでいく特長である。そろばんの珠のように滑らかに反り返ったボディーに、トップと足を付けたのが竹下ウキのフォルムだ。これは一見、あの名ウキと全国的に呼び声高い「峯ウキ」のフォルムを思わせるが、両方のウキを使い込んだ私にとっては、まったく別物。共に管付き棒ウキであることで同類のウキという仲間分けをされがちだが、二つを使った釣りイメージはまったく異なったものである。それぞれのウキの作者であり、釣り名人であるお二人は、お互いのウキの存在を知らないまま、それぞれの釣りイメージの中からこの独創的なウキを削り出した。この歴史は古く、そのルーツは私が知る由もない。

釣りの舞台は全国に・・・そして必殺釣法の誕生

 島根半島や隠岐をホームグランドにした釣りから、トーナメントに参戦し始めると、これまでの釣りイメージだけでは通用しなくなってくる。干満の差が大きく激流走る九州、四国、瀬戸内と舞台は全国各地を股に掛けるようになった。ここで初めて「ウキを沈めて使う」発想が生まれてきたのである。今でこそ「沈め釣り」「スルスル釣り」が最先端のグレ釣りとして紹介されているが、私自身も常に相手のホームグランドに乗り込み、そこで実績を挙げるにはどうしたらよいのかと研究に研究を重ねていった。当初はウキの浮力をなくすためにガン玉で調整して使いこなしていたが、さらにイメージを展開していくと今ひとつしっくりいかなくなった。そこでトーナメントを転戦する中、竹下氏にお願いして作っていただいたのが、残存浮力のほとんどない「G5、0,00,沈め」などのウキである。私は、これらのウキと従来からある手持ちの竹下ウキを状況に応じてローテーションすることで、どこの釣り場でも釣りこなせるようになり、トーナメントでも実績が残せるようになった。状況に応じた釣りイメージはたくさんのタックルと操作の組み合わせによるものだから、釣法は自分でもいくつあるか分からないが、その中から竹下ウキにしかできない、いくつかの必殺釣法を編み出した。それが「忍者釣法」「ナイアガラ釣法」「スイッチバック釣法」だ。

付け餌が海底から浮き上がってくる「忍者釣法」

 グレ・チヌ釣りの永遠のテーマの一つに「餌盗り対策」がある。現在のトーナメントシーンでは、グレの数だけを競うのではなく、規定サイズを設けたり、引数を限定してより型の大きなグレを競うルールが多くなった。そこで考え出したのが「忍者釣法」だ。良型グレは撒き餌の上層に群がる餌取りやコッパグレの下層にいることが多い。そんな場合、撒き餌と付け餌を同じ位置からなじませていたら、狙う良型の魚に届く前に付け餌を盗られるハメになる。良型の層にいかにして付け餌を送り込むかがテーマである。しかもグレ釣りの基本である撒きエサの同調、適度な仕掛けの張りもイメージしなければならない。忍者釣法とは、付け餌を上から落とし込むという常識を大きく覆した釣り方だ。手順を説明すると次のようになる。

  1. 狙う場所へ撒き餌を数杯投入する。
  2. 仕掛けをその沖に投入する。
  3. ウキを沈めながらゆっくり引いてくる。
  4. 仕掛けが撒き餌の下に潜り込んだらベールを起こしてテンションを緩める。
  5. 撒き餌を追い打ちする。

 まず、餌取りの層を先の方でクリアーし、一気にその下にいる良型のグレやチヌを狙い打ちにできる。これはただ餌取りの層をクリアーするだけではなく、ウキがゆっくり復元するとき、当然の理屈でウキは上へ、付け餌は下へ向かう。したがって相互に喧嘩し合い、速く仕掛けをなじませることができる。仕掛けを速くなじませる場合は、重たいガン玉を使えば簡単だ。しかし食い渋る魚には敬遠されることが多い。さらにウキと付け餌が引っ張り合うことにより、絶妙な張りができて食い渋る魚に口を使わせる微妙な誘いを演出することができる。残存浮力の少ない管付きウキならどのウキにもできそうな芸当だが、ここで重要なのはボディーの形状だ。竹下ウキのそろばんの珠のような形状だからこそ、深く潜らせることができ、次にウキをゆっくり復元させることができる。復元するスピードがゆっくりの方が撒きエサと付け餌を長らく同調させることができる。仕掛けを引っ張ってウキを沈ませるときのテンションのかけ具合は、状況によって非常に微妙だ。一定のスピードで巻いたのではうまくいかない。それをマスターするには、ある程度の慣れも必要である。

撒き餌を花火の滝のように縦長に落とす「ナイアガラ釣法」

 当初私は、本流釣りには管付き棒ウキは不向きというものがあったが、何とか攻められないものかと試行錯誤を繰り返していた。そしてひらめいたのが、マイナス浮力のウキを使うことだった。それによって、ハリスに一切ガン玉を打たず深いタナまで探ることができるようになり、「グレ釣りは完全フカセで」という私のイメージにピッタリの釣り方が生まれた。そして、微妙に浮力の違うウキを次々にローテーションすることにより、激流走る本流も、本流への引かれ潮も釣りこなすことができるようになった。そしてここでもそろばんの珠のようなそのボディー形状が、まるで潮を咬むかのようにしっかりポイントをとらえて離さないのである。もしもこのボディーが丸い形状だと、道糸修正するときに一瞬にして潮筋からずれて撒き餌と同調しないのである。
 こうして誕生したマイナス浮力の竹下ウキを使ううちにひらめいたのが「ナイアガラ釣法だ。名前の由来は、縦長に撒きエサを入れ、花火のナイアガラのように沈ませる点である。こうして餌盗りやコッパグレを上層に集めておき、仕掛けを沈めて撒き餌の下をゆっくり引っ張り、下層にいる良型を狙い撃つのである。このときもえらの張ったボディ形状が浮かず沈まずの状態を演出してくれ、撒き餌の層の中をゆっくり引くことができる。 ウキが撒きエサの帯の下を移動するから、ウキは見えない。したがって、アタリは道糸の動きや竿先でとる。

徐々に沈めながら探る「スイッチバック釣法」

この釣法の名前の由来は、傾斜の急な坂を電車が上るとき、まっすぐ頂上へ向かうと登り切れないから、左右へ行ったり来たりを繰り返しながら徐々に登ってゆく、あのスイッチバックとかけている。
 実際の釣り方も、それと同じように流しては引き戻し、流しては引き戻しを繰り返す。ここでも引くとウキが沈むことを利用し、またあのボディー形状が潮を咬むことによって、一定のタナをキープしながら徐々に深ダナを探ってゆく。図にも示しているとおり、その一連の動作を繰り返しながら、アタリが出るまで探ってゆく。2ヒロでアタリが出なければ3ヒロまで、3ヒロでアタリが出なければ4ヒロまで、という具合である。このとき付け餌がたどる軌道はジグザグだ。通常の落とし込み方(例えばほったらかしの全遊動)だと、多少の動きはあるものの、付け餌がほぼ一直線に落ちてゆく。それと比べるとこの釣法を使えば、付け餌を目まぐるしく動かし、かつ魚の食欲を刺激するのである。そしてこの釣法もハリスにはガン玉を一切使わずに深ダナが探れるのであるから、これもまた私の釣りイメージにピッタリマッチした。
 以上の三つの釣法をまとめると、私の釣りイメージの中の竹下ウキは、本来ウキが持つ機能に加えてガン玉、水中ウキ、ナビウキを、これ1本ですべて兼ね備えていることになる。まさに、魚がいるところへウキが誘導してくれるかのようである。

恩返しは全国制覇で

 最近のことである。竹下ウキの制作者で私の師匠でもある竹下努氏が、ある日私を訪ねてこう言った。「これはな、小島くんの釣りをイメージしながら削ったんだ。使ってみてくれないか」と・・・。氏は、白い包みの中から、まだ塗料の臭いが残る出来たばかりの竹下ウキを差し出した。
 氏と出会い、竹下ウキと出会って12年。一本のウキに込められた氏の釣りイメージを探りながら、自分独自の釣りイメージを創造する今。今度は作り手である氏の方が、使い手である私の釣りイメージを基にウキを作ってくれたのである。「信頼して使っていて良かった。ありがたい」。
 竹下ウキの釣りイメージは、私の中でこれからもどんどん膨らんでいこうとしている。この先どんな新しい発見があるのか楽しみだ。そういう意味では、限りない可能性を秘めていると言ってもいいだろう。そしてこの竹下ウキの釣りイメージを持って、21世紀に持ち越しになった釣りトーナメント「全国制覇」の夢を叶え、氏への恩返しとしたいものである。

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