深場のノッコミチヌ攻略法
人間の想像力がチヌに勝るか
待望の高速道路開通
待ちに待った山陰道の一部、安来-宍道間が3月24日に開通した。これで私が住む島根県宍道町から鳥取県大山町までの56キロが一本の高速道路で結ばれ、これまであまり釣行機会がなかった鳥取方面へもエリアが広がりそうだ。さらにうれしいことは、この道路が開通したおかげで県東部が初めて、全国の高速道路ネットワークに組み込まれ、瀬戸内方面や四国方面への釣行が大変手軽になってきたことである。それだけ釣りの夢も広がるというものだ。鳥取県東部に初釣行。実はこの高速道路の開通に合わせるかのように、かねてから交流のあった鳥取フィールドチャレンジャー(鳥取FC)の会長竹村さんから、「鳥取県東部地方にノッコミチヌの穴場ポイントがあるので行ってみないか」と誘いを受けていたのである。
3月25日、私が率いるG1トーナメントクラブのメンバー曽田直紀くん(松江市)と石橋淳一くん(平田市)2人と合流し、完成したばかりの高速道路を走らせた。途中、竹村さんが経営する釣りエサ店「ヒットライン」(鳥取県倉吉市)で竹村さんたちと合流。店に案内されると深夜だというのに、鳥取FCのメンバーらが大勢集まって釣り談議に花を咲かせていた。狭い店だが、店舗奥にはお客やメンバーたちがくつろげる部屋を開放。そこには最近進出してきた大型店舗には無いアットホームな雰囲気が漂う。最新情報が最も大切な釣りだけに、こういう交流の場が釣果アップや釣り技術向上につながっていくのだろう。私たちは予約しておいたエサを積み込み、先導する鳥取FCメンバーの車に連なった。目指すはさらに東進する、何と、鳥取県と兵庫県の県境に位置する「居組」という小さな漁港だ。ここにチヌの好ポイントがある。竹村さんたちは、もうすでに2月中旬からチヌをバンバン上げているという。
切り立った激しい海岸線に…あ然
鳥取というと私たちがどうしても思ってしまうのが、鳥取砂丘のイメージだ。海岸線はなだらかな浅い砂浜を思い描いてしまう。私たちが好んで釣行する「荒磯」のイメージは湧いてこない。しかしどうだろう、現地に着いてビックリ。私たちの目に飛び込んできたのは黒々と切り立った荒磯の海岸線と数々のハナレ磯だ。海の色も黒々としていて、かなりの水深がある岩礁地帯であることをうかがわせた。
「すごい」。隠岐や九州の離島を経験する自分ではあるが、今までの固定観念とのギャップも手伝ってあ然とするほかない。チヌばかりではなく、これならグレ、マダイ、ヒラマサ、イシダイと私が思うところの磯釣り5大魚種が何でも狙えそうだ。渡船で港を出てさらに磯に近づくと、その期待感は胸の鼓動となって今にもヒートアップしそうだ。そして胸の鼓動のもう一つに、G杯チヌ2連覇の南康史名人(岡山)と竿が出せるという。この日は竹村さんの計らいで南名人と同じポイントで釣りができるようにセッティングしてくれていたのである。この様子は本紙カラーグラビアで詳しく紹介されているのでポイント図や仕掛け図なども含めてこの章を参照されるとよい。
さて、居組のチヌ釣りポイントは、足元から水深15メートル前後の深場が多いようである。ウキ下も竿2本は普通で、ポイントや潮などの状況次第では竿3本前後の深ダナで狙うこともあるという。今回は比較的深ダナで狙う事の多い山陰地方のノッコミチヌ攻略法について、居組の磯での実釣をもとに私の釣りイメージを展開してみよう。
ウキの遊動スムーズなタックル
私が深ダナ攻略で心がけているタックル設定は、いかにトラブルが少なく速く確実に自分が設定した棚とりが出来るかという点だ。管付きウキの使用は、道糸とウキの接点が海中に入り込んでいるため道糸のスベリがよく、風や波の影響を受けにくい利点がある。私は竹下ウキの16センチタイプを好んで使用しているが、狙う棚が深ダナになればなるほど足長タイプの18センチから20センチのものを使用している。海中に深く入り込むほど棚とりが速く仕掛けがなじんでからの安定性も良い。安定がよいというのは、仕掛けが道糸の重みや波風の影響で潮筋を外しにくいと言うことである。浮力は、落とし鉛にある程度大きめのガン玉を使うことが多いことから、3B以上を使うことが多い。ウキと道糸のジョイントは特に神経を使う部分だ。私は「Fujiのラインスイベル1.0号」を使う。これは海中での道糸のスベリが抜群でラインやウキのトラブルもほとんどない。現在ではこれ以上のものは思い浮かばないほど信頼して使っている。そしてこれを止めるウキ止めにも工夫が必要だ。私はウキ止め用として市販しているものは一切使わない。フロロカーボン製のハリス1.2号を使用した山元八郎氏考案のなるほど仕掛け」(図参照)を使用する。
ハリスとしても優れている東レのEXは、しなやかなので道糸を傷つけずに結びやすい。最近はアユ釣り用の目印糸の使用も試しているが、今回のテーマ「深ダナのチヌ釣り」に関して言えばどちらでもOK。これらの方法は、確実にウキが止まり、ガイドの通りがよく、リールのスプールに巻き込んでも投入時に道糸の引っかかりがなく投入がスムーズだ。
その他アユの目印糸はカラーが豊富なので視認性がよく、素材が柔らかいので道糸を傷つけにくい利点もある。
ガン玉使いはケースバイケース
ガン玉はゴム張りガン玉を使用している。これは取り外しが簡単で位置をずらすときにも細いハリスを傷つけない優れモノだ。少々値は張るが釣行後に水洗いしておけば何度も使える。問題はガン玉を打つ号数と位置だ。私の場合はウキから50センチから70センチ離した位置に落とし鉛を打つ。3B以上の大きなガン玉を使う場合は、2個以上に分散して打つ。理由はこの方がハリスが速くなじみハリスの絡みも少ない。さらに潮の状況などに応じてハリスの中にガン玉を追加する場合がある。
今回、居組の釣行では水が澄んで非常にチヌの活性が悪いようだったので付け餌を海底付近に安定させるため、ハリのチモトにジンタン3号から5号を追加した。その他餌取りの種類や量によっては、ハリ上1ヒロ以内にBから2Bのガン玉を打って、付け餌をさらに速く底に沈める方法をとる場合もある。いずれにしてもガン玉使いはケースバイケースであり、同じような状況でもその人の仕掛設定や仕掛けを振り込む癖や道糸の送り、仕掛けの張り具合など釣り人それぞれのやり方で号数や位置が変わってくるのは当然のことである。ここでは一つの例として参考程度にし、自分自身のパターンを試行錯誤の中で完成させることである。大切なのは、ただ付けておけばよいと言うことではなく、すべてのことに意味を持たせて自分なりの釣りイメージを頭の中で描いて取り組むことだろうと思う。
高比重の撒き餌で底ダナを狙い撃つ
撒きエサには半日分(6時間)の量としてオキアミ生3キロ2角にマルキューのチヌパワームギ1袋、
オカラだんご2袋を混ぜる。オキアミは1角を細かくつぶして混ぜもう1角は原型のまま混ぜる。
この配合は上層、中層、下層に分散し、沈むスピードも水加減で調整できる。オカラだんごはにごりや拡散性がよく、しゃく離れもよく遠投が可能だ。この配合にたくさん入っている押し麦は、高比重で視覚的にもアピールしチヌの好物だ。深ダナを狙い撃つには効果的だ。釣ったチヌの胃袋からはたくさんの押し麦が確認できる。撒きエサを作るときに注意していることは、最初に配合エサをよく混ぜて程良く水分を加えておくことだ。その後にオキアミを加えて完成させる。これはオキアミの水分が配合エサに吸われてしまわないための配慮だ。深ダナを狙う場合は、オキアミの比重にも神経を使いたいものである。
一連のリズムが深ダナ攻略のカギ
遊動部分をスムーズに機能させ深ダナを効率よく狙うには、仕掛け設定だけではなくその仕掛けを使いこなすことも重要だ。1.振り込み、2.道糸の送り、3.撒きエサ、4.道糸修正、5.誘い、これらの一連の動きがリズムよく操作できなければならない。
振り込みは狙ったところへ投入する遠投力、コントロールはもちろんだが、私が特に心がけている点は着水時のハリスの位置と方向だ。着水寸前に道糸にブレーキをかけてハリス部分をウキよりも沖に着水させるテクニックだ。着水すると間髪入れずにウキを少し手前に引き、ハリスの部分をピーンと張り、付け餌が一番沖の方からなじむようにセットする。そしてこれまたすぐに、遊動部分の道糸を少し多めに送り込んで仕掛けのなじむのを待つ。仕掛けがなじむ間に撒きエサを打ち込む。管付き棒ウキはウキの変化で遊動部分がなじんだことを知らせてくれる。ここまでの動作がリズムよくスピーディーに行わなければならない。投入時は風を計算に入れ、ウキとガン玉が絡まないように左右どちらからでも投げられるように練習する。この操作が確実に出来るようになれば、かなりの高確率で深ダナのチヌを攻略できるものと考える。なによりも3ヒロから4ヒロもある道糸の遊動部分を速くなじませ、ハリスの絡みなく付け餌を底になじませることが重要である。仕掛けが落ち着けば余分な道糸を巻き取って、道糸修正をかけながら時折誘いをかけてアタリを待つ。
海底の中をイメージする想像力を磨け
ふかせ釣りで最も重要なことは、目で見た情報を基に自分の頭の中でイメージを創り出し、それを動作で表現することである。それは目で見えない海底の中をいかに想像するかと言うことだ。
チヌを釣るまでのストーリーを自分で想い描くと言ってもよい。それは作家が小説を書き上げるのと同じようなものだ。ここにふかせ釣りの最大の魅力があるのだ。特に深ダナの場合はこの想像力、
イメージ力の差が釣果を分けると言ってもよい。自分が設定したタナに付け餌と撒きエサが同調するようにイメージするわけであるが、6ヒロ、7ヒロと深ダナになればなるほど、海面から海底まで到達する間にさまざまなドラマが生まれるのである。大道具、小道具のセット(潮、風、波)、たくさんの脇役たち(エサ盗り)をいかに自分のイメージの中に組み込んでいくかである。だから平面的なとらえ方しかできない人は、たとえば撒き餌にしてもいつもウキの頭にしか打たないといった単調な釣りになってしまう。海の状況次第では6ヒロのタナに到達した時点で、付け餌と撒きエサが全く違う位置を流れていることになる。自分のイメージと実際の海底の状況が全く一致しているとは限らないが、このように肉眼で見えない海底の状況を常に頭の中に想い描きながら釣りをすることが大切なのである。自分が想い描いたストーリーどおりに事が進み、最後に主役であるチヌが登場すれば、なんとも言えぬ感動的なドラマがそこに完結する。
このドラマは釣行1日ではない。1投1投がほんの数分間の短いドラマである。主役が登場しなければどんどんイメージを変えて展開していけばいい。どんなドラマになるかは10人いれば10通り、100人いれば100通りのストーリーが生まれるものであり、思い切ってやってみることだ。それが価値ある1匹となり、イメージしたあなただけのG1(グレードワン)につながっていくのである。釣り人は「大自然」に物語を描くアーティストだ。