小島一文の
“G1フィッシング”

G1フィッシング

男女は何度行っても期待を裏切らない

男女群島釣行記

 おーい、帰ったよ。夕御飯をそそくさと食べた後、すぐに釣り部屋にこもる。一日で最も楽しく心休まるひとときだ。今シーズン2度目の男女群島遠征の日程が決まって、準備にも熱がこもる。道具の一つひとつを点検しながらさまざまなイメージが湧いてくる。今までの釣行記録や釣り雑誌の関連記事に目を通しながら、まだ来ぬ現実を夢のなかで見るのである。釣りというものはなんとおもしろいものなのだろうか。実釣はもとより、釣行前の道具を準備したり買い揃えたり、また釣果があった後の自慢話や新鮮な魚の料理。こんなに楽しいことがほかにあるのだろうかと・・・。釣りを知らない人たちが、あわれに思えてくるのだから・・・。
 出発の前夜。チェックリストを作って完璧に準備したはずなのに、まだ何か足りない物があるような気がして心配だ。玄関口にそろえた遠征バックをもう一度開けたり閉めたり、「まるで子どもが遠足に行くみたいだわね」と妻がバカにして笑うが、そんなことは気にしない。出発当日は朝が速いが、いつもとは違ってすがすがしい一発での目覚め。「ほんなら行くわ」、「はい、気をつけて」。これから九州の無人島へ魚釣りに行くというのに、出かける私も、送り出す家族も近場の島根半島あたりへ出かけるときと何らかわりがない。違うのは自分の気合いの入れようだけだろう。待ちに待った出発の時である。

目標はいつも60センチ

 エンジン音が低く太い音に変わり男女群島到着を知らせてくれる。ウエアーを急いで着込んで船外へ飛び出すとすぐ目の前にサーチライトに照らされた黒い男女の磯が現れた。天気予報は波高3メートル。ややスピードを落とし約5時間で男女に到着した。
 1月29日、午前2時。男女群島の最北端。ここは「上の赤瀬」のようである。「ワーここへ上がりたいなー」と思いながらも、船長の指示で最初に団体のメンバーたちが渡礁した。
 私たちのメンバーは、2人ずつのペアになって「クロキ島」と「中ノ島」の水道にあるハナレ磯「オチャン瀬」「水族館」にあがり、最後に私たちペアはさらに南下し、中ノ島の「吉田の4番」に渡礁した。
 さっそく夜釣りの仕掛けをセットして釣りを開始した。男女群島の釣りの一番の魅力はなんと言っても目標とするビッグワン60センチオーバーの尾長グレを仕留めるところにあるだろう。しかしいくら男女群島といえども、だれもが釣れるわけでもなく、それらしきアタリもないということも多い。特に昼釣りでは、本流の影響を受ける瀬戸周りのポイントに限定されるようである。この瀬戸周りの磯は天候にも左右されやすく、しかも釣り人が多いときは競争が激しく私などは滅多に渡礁するチャンスがない。そこで、男女の磯なら比較的どこの磯でも60センチ級の尾長グレがヒットしてくるチャンスのある夜釣りや朝、夕のマズメに集中して釣るのである。よくベテランの釣り師に、「いくら大きくても夜釣りで釣っては価値がない」とか、「昼釣りで釣らないとつまらん」とかいう人があるが、それは過去に何十匹も何百匹も釣った経験がある人がいうことであって、まず私たちのレベルでは、60センチの尾長グレの現物を自分の手で釣り上げ、直に手にしその重みを感じることが大切なのだと私は思う。現物を肉眼で見るだけでも価値があるのだ。そりゃー60センチのグレはデカイ。

こだわりを捨てて

 離島の夜釣りについては今までにいろいろなイメージで挑戦してきた。仕掛けについては夜釣りであっても軽いシンプルな仕掛けにこだわり、釣り方についてもよく言われる「際狙い」を忠実に守ってきた。しかし、いろいろな状況のなかで軽い仕掛けを磯際に止めて釣るには非常に困難なことが多く効率が悪いことに気がついた。複雑な潮流、力の強いサラには、3B、4Bといった大きめのガン玉も十分とはいえない。それになんと言っても今までの仕掛けで十分な結果が得られていないことが、今までのこだわりを捨てる一番のきっかけだったわけである。
 そこで今回は、準備段階からイメージしていた仕掛けを試してみることにした。図の仕掛けであるが、今までにはほとんど使うことのなかった水中ウキを採用した。号数は、潮流の早さ、サラシの強さに応じて-1号、-1.5号、-2号、-3号を用意した。ウキは管付きの自立タイプ、マイナス付加に応じてこれも各サイズを用意した。釣り方については、初めはセオリーどおり3ヒロ前後のウキ下で磯際を狙い、それでもアタリがない場合は、根掛かり覚悟でウキ下をどんどん深くし、磯際にこだわることなく沖の方まで流してみることにした。

自己記録更新と思ったらダルマダイ

 最初3ヒロのウキ下からスタートしたが、アタリもなくエサの変化がないことから、6ヒロまで深くし、サラシと潮流とがぶつかり合う潮目まで仕掛けを流し、そこで止めていた。すると今まで変化がなかったウキがスーと海中に消し込まれた。竿を立てるとものすごい引き、今までに磯釣りで経験した引きのなかでも最大級である。太ハリスを信頼し竿の角度だけに注意して耐えられるだけ耐えた。「これは自己記録更新、もしかしたら70センチオーバーかも・・・」などと思いながら夢中でリールを巻きに入った。やがて格闘の末、大きな魚体が海面にばたつきはじめた。「これはでかいぞ・・・」。玉網を伸ばすが、夜釣りの玉入れはなかなか一発では行かない。それに魚体がデカすぎる。やっとの思いですくい上げ魚体を確認すると「ダルマじゃー」。そう、ダルマダイことメダイだったのである。その大きさ80センチ。それにしても、ものすごい引きにはビックリ。そして、尾長グレと思っていただけにちょとガックリ。しかし、ダルマはおいしい魚だと聞いていたので、ていねいにシメてドンゴロスに収めた。その後朝マヅメまでに50センチ弱の尾長グレを追加した。
 最終日、風が収まり海がしだいに凪いできたので待望の西磯にまわってみることになった。北西の季節風の影響で西磯には滅多に渡礁出来ないことから、東磯に比べて釣り荒れが少ない。私たちは、ハナグリ島の「石塚」という磯に渡礁した。ここでは昼釣りで40から50のグレを稼いでそのまま夜釣りに挑んだ。ここでも例の仕掛けを試してみたが、まだうねりが残りサラシが強いので-2号の水中ウキをセットした。この仕掛けが的中したのか、50センチオーバーの尾長グレがつぎつぎとヒットしてきた。おまけに昨夜ビックリさせたダルマダイも2匹喰いついてきた。冷静になってみるとダルマの引きは強いには強いがどことなくグレとは違うようである。

水中ウキは効果があった

 今回の釣行では、目標の60センチオーバーを釣り上げることが出来なかったが、試してみた夜釣りの仕掛けはほぼイメージどおりに使いこなせた。ただのオモリではなく水中ウキを使った理由は、サラシや潮流で止め釣りをした場合、その水中ウキが潜り込む流れをキャッチしてくれるのではないかと思ったのである。深いタナを取る場合は遊動式にするのであるが、いったんタナがとれれば仕掛けが浮き上がりにくいのではないかという点も水中ウキを採用した理由である。結果はほぼイメージどおり。止めていると水中ウキが流れをキャッチしてウキごと仕掛けを潜り込ませるのである。竹下ウキを使った沈め釣りとよく似たイメージでなじんでいくことを発見したのである。こうしてウキ下をこまめに変更し確実にタナを取っていき、磯際にこだわることなく沖まで流し込むなど平面的にも立体的にも幅広い攻めがヒットチャンスを生むのであると思う。今シーズンはビッグワンを手にすることが出来なかったが、来期もまた確実にシーズンが訪れチャンスは巡ってくるのである。

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