夏の終わりに天才釣り少年に遭遇
小学生釣り師との出会い
今年の夏は自然の驚異をまざまざと思い知らされる夏であった。神奈川県のキャンパー流出事故を代表に各地で水の事故が相次いだ。私の身近でも釣行途中の磯でこの時期予想もしない大波に遭遇し、海中に投げ出され尊い命を無くされた方や、日御碕で貝捕りをしていて亡くなった方もある。比較的安全だと思われる宍道湖でもしじみ捕りをしていて深みにはまりおぼれ死ぬという事故も相次いだ。これらの不幸な事故で尊い命を無くされた方には心よりご冥福をお祈りすると共に、これらの事故を教訓に私たちは何か考えさせられることがあると思う。私はこのような自然災害や自然の猛威による事故が起こる度に、自分勝手な我々人間がいつも自然に対して行ってきた事に対するしっぺ返しなのだと考える。社会的には環境汚染や自然破壊に関するもっと大きな問題もあろうが、これらにしても人間一人ひとりの自然に対するモラルの低下が積み重なったことに他ならないのだと思う。これらのことは、そういった人間に対して自然がもたらした何かの警告なのではないか。特に釣り人など自然にふれ自然の恵みを得てそれを楽しみとする人たちは、この警告を真っ先に謙虚に受け入れるべきである。事故を機会に、自分はいつもどのように自然と接しているのかどうか、今得られる自然の恵みを当たり前だと思うのではなく、いつも自然を尊重し自然に対する感謝の気持ちを忘れないようにしたい。こんなに楽しくて大好きな釣りを私たちの世代だけで終わらせることなく、親から子、子から孫へと正しく受け継がなければならない。
そんな夏の終わりに、心和むほのぼのとした出来事もあった。「釣りは少年の心で」をモットーにする私にとっては、まさにそのものである天才釣り少年2人に遭遇したのである。
まず1人目は、宍道湖でセイゴ釣りをしていた稲村拓也くん(八束郡宍道町:小学6年生)に遭遇した。8月25日、私は仕事が終わった午後9時、餌の青虫を1,000円分買い込んで宍道湖のほとりに出かけた。今シーズンの宍道湖のセイゴは絶好調。セイゴは夜行性なので夜釣りで狙うが、暗くなった午後8時頃から釣れ始める。今年は30センチから40センチの良型が数多く釣れる。いい人は、午後11時頃までの3時間で10匹とか20匹とか釣る人もいて、まさに入れ食いである。時には50センチクラスのフッコ、70センチオーバーのスズキのアタリもあるので油断ができない。それにしても普段生活しているすぐ目の前が釣り場であり、セイゴやスズキがバンバン釣れるのであるからなんとも恵まれた自然環境である。宍道湖のほとりはどこでも狙えるが、私は家から近い宍道町から玉湯町間で竿を出すことが多い。ウイークデイの仕事が終わった一時に、エサ代1,000円で手軽に楽しめるのも魅力の一つである。
拓也くんはおじいさんと一緒に来ていて、すでに15センチ前後の小型は入れ食い状態。遠投した電気ウキが着水と同時に横へスーと走った。パシッとアワセを入れるとスムーズにリールを巻いてアッという間に取り込んでみせた。えらや背ビレが鋭いセイゴをタオルでつかみ器用にハリをはずして、すぐさま次の青虫をススッとハリに刺して振り込んだ。一連のリズムというか手返しは大人顔負けである。拓也くんに今日の様子を尋ねると「ちいさいのばっかりでつまらん」と小型の入れ食い状態にもちょっと不満足。今度はおじいさんに聞いてみると「お盆の前には40センチ級が良く釣れて、この子もたくさん釣りました」と目を細めていた。やがて少しアタリが遠のくと、おじいさんが「少しサビイたほうがい」いと拓也くんにアドバイス。すぐさま竿先でアタリをとってまたセイゴを取り込んだ。やがて拓也くんの竿にばかりアタリが出始めると「おじいさんタナが浅い方がいいよ」と今度は拓也くんがおじいさんにアドバイス。二人で情報交換しながらどんどん釣果を伸ばしていく様子にすっかり感心してしまった。
二人目は、三隅町「鹿島」でヒラマサ釣りをしていた福田圭志くん(邑智郡邑智町:小学6年生)に遭遇した。8月27日、今月初の海釣り釣行は午前1時30分、宍道町を手発して午前5時出船の一番船に乗り込んだ。この日は南西から西よりの風が強く、波高も約2メートル。1級の「平場」「西の鼻」には渡礁出来ず、「亀の首」というポイントに渡礁した。この日は最初からG1タルカゴたっちゃん仕掛けでヒラマサを狙って釣りはじめたが、全くアタリらしきアタリがない。風や波も渡礁したときよりだんだんと強く大きくなる始末で非常に釣りにくい状況となった。そこで磯の反対側「船付」へ移動することにした。ここでは圭志くんがこれもおじいさんと竿を出していた。状況を訪ねてみると「さっきやっと1匹来ましたよ」と、おじいさん。しかし驚いたことに、取り込んだ55センチのヒラマサは、なんと小学6年生の圭志くんが釣り上げたというのである。私はその状況を見ていないので「ほんとうかいな」と少し疑った。クーラーをみせてもらうとその他にもグレやイサキがたくさん収まっていた。私はお願いして二人の隣で釣らせてもらうことにした。圭志くんは私たちが使う5.3メートルよりもやや短い4メートルほどの竿にカゴウキをセット。ハリスは2ヒロ、付け餌をカゴウキに掛けオーバースローで投入した。さすがにわれわれが投げるほど距離は出ていないが、おそらく狙って投げたのだろう、足下から出るサラシの切れ目よりもやや潮上に着水した。右から左に流れる潮がこのサラシとぶつかり合って潮目になっている。圭志くんは横風に道糸を取られ過ぎないように調整してこの潮目に付け餌をなじませた。しかも驚いたことに付け餌が先行するように道糸をコントロールしているのである。おじいさんから教わったのだろうか、すでに基本といおうか、どうやったら魚が食ってくるのか分かっているような釣り方である。それにしてもセンスがいい。
そして午後1時頃、大人の私たちを尻目に圭志くんの竿が大きくしなった。これは間違いなくヒラマサのアタリだ。圭志くんはのされそうになる竿を必死に立てて耐える。小さな体が体ごと引っ張られ磯の前に出る。それでも圭志くんは歯を食いしばってヒラマサと格闘し続けた。やがて観念したヒラマサが水面に浮いてきてタモを構えていたおじいさんが一発ですくい上げ、圭志くんはホッとした表情で満面の笑みを浮かべたのである。ほんとうなのかと少し疑っていた私は、仕掛けの投入からポイントへの流し方、取り込みまでの一部始終を目の当たりにして、圭志くんのヒラマサはまぐれでないことを確信した。この日私は、ヒラマサを2本掛けながら取り込む寸前でいずれもハリはずれ。少し疑ってしまった私は、圭志くんに対し申し訳ないやら恥ずかしいやら。それにしてもこの年齢にして60センチ近いヒラマサをいとも簡単に釣り上げてしまった圭志くん、この先どんな釣り師になっていくのだろうか。
小学生最後の夏休み、この2人の少年たちには、最高の思い出が出来たことだろう。釣りの好きなおじいさんが、釣りの醍醐味や楽しみを孫に伝える。孫はそれを素直に受け継ぎ実践していく。この夏の終わりに、こんなすばらしい光景に遭遇したのである。