小島一文の
“G1フィッシング”

G1フィッシング

規定サイズが21センチに。男達が一喜一憂

山陰勢の活躍

 最近のトーナメントシーンで、山陰地方の出場選手がめっぽう多くなった。私が出場し始めた平成2年ごろといえば山陰地方の選手は、せいぜい十数人。それがどうだろう、最近の釣りトーナメントブームもあって、各種メーカーなどが主催するトーナメント予選には、島根・鳥取両県からたくさんの釣り人がエントリーするようになった。最近行われた中国地区の予選大会を見てもG杯チヌ予選、徳山会場、広島会場ともに山陰勢の活躍が目立った。
 私が率いるG1トーナメントクラブからも4人が中国決勝に駒を進め、さらに6月3日に開催されたマルキューカップグレ中四国予選(愛媛県日振島)では同クラブの宮廻裕くん(出雲市)が見事優勝し、全国大会に駒を進めるという快挙を成し遂げた。このことは大変に喜ばしいことであり、これからもたくさんの釣り人たちに挑戦してもらいたいものである。

上手だから出るんじゃない

 私が「トーナメントに出場してみないか」と声をかける中には「私などとんでもない、まだまだそんなレベルじゃないです」などといって断る人も多い。しかし、技術が高いから出る出ないというものではなく、出よう、挑戦してみようという気持ちがあれば、それがその人の素質であって、まずは出場してみることである。そしてそこで感じ得たことを日々の取り組みとして実践していければよいのである。トーナメントでは、新しい人との出会いや新しい発見がたくさんあり、趣味の釣りだけではなく、生活全般にわたって人生を豊にしてくれるはずである。釣りは「楽しい」が第一でありトーナメントの釣りがすべてではないが、やってもやっても行き着くところがない釣りだからこそ、トーナメントという目標を持って真剣に取り組むことこそが、そこに限りない「楽しみ」を創出してくれるものと信じている。なかなか数も釣れない、大型も少なくなったといわれる中で、たとえ規定サイズぎりぎりのグレ1匹でも、そこへ到達するまでのプロセスに価値を求めることができること、それがトーナメントであり「G1(グレートワン)」の神髄である。

クラブ対抗戦

 そんなトーナメントでの出会いの中で山口県長門市を拠点としたプレヤーズという、トーナメントクラブからクラブ対抗戦及び技術交流会のお誘いを受けた。この企画を練ったのは昨年G杯グレでともに中国代表として出場した高下徳広さん。お互いのクラブから3人ずつを選抜して総当たりの対抗戦をしようというもの。ルールは1試合2時間、21センチ以上のグレの総重量で決する。場所はG杯グレ中国予選で毎年使われる青海島の1級磯「平家台」が舞台に選ばれた。ポイント図のA,B,Cをプレーヤーズ、G1のメンバーがそれぞれ逆回りをして対戦していく。
 相手プレヤーズの代表は手強い。リーダー格の中原弘文さんは私がG杯グレ初出場の時やはり中国地区代表で出場し上位入賞した実力者だ。ダイワマスターズにも4度全国出場し準優勝の経験もある。重村昌利さんは昨年のG杯グレで堂々の全国8位入賞を果たした。高下徳広さんも昨年のG杯グレ、東レカップグレ2回の全国出場経験を持つ。G1は、私のほか安部政吉さん(八束郡八雲村)と宮崎光夫さん(飯石郡三刀屋町)で挑む。

喰い渋りに思わぬ苦戦

 この日は梅雨前線の影響で朝から大粒の雨が降りしきる。幸い風はなく海はベタ凪状態だ。第1ラウンド、私はBポイントで高下さんとの対戦が決まっている。ジャンケンで勝った者が海に向かって右側に足場を取る。私のタックルは図のとおりであるが、状況に応じてガン玉をつけたりはずしたり、ウキ止めをつけたりフリーにしたり、目まぐるしく対応した。それだけ苦戦したということである。撒き餌は、1ラウンドでオキアミ生6キロ、マルキューのグレパワースペシャル遠投ふかせ1,イワシパワーグレ1を使う。オキアミ生3キロは配合エサと混ぜずに同じバッカンの片方に分けて使用した。また、あらゆる状況に対応できるようにパワーレスキューを携帯した。
 午前5時、第1ラウンド開始。Bポイントは足下から水深があるようなので、まずは磯際に粒だけの撒き餌を入れて仕掛けを投入した。磯際狙いを30分試みるが何のアタリもない、ウキ下はハリス2.5ヒロ部分がなじんだ後にさらに道糸を送り込むスルスル釣りで底近くまで付け餌を届けるが時折フグがかじる程度だ。一方高下さんは、やや沖目を狙っている。どうやら1回グレらしきアタリがあったが、根に潜られてしまったようだ。餌取りの活性もあり毎回付け餌も取られている。私はその状況を見て、すぐに狙いを沖目に移した。今度は配合エサを加えた遠投用の撒き餌をウキ近くに合わせてアタリを待つ。するとようやく本命のアタリだ。規定に十分な27センチほどのグレを取り込んだ。グレは沖にいた。しかし後が続かず場所交代。後半に入って高下さんがこの状況を逃すわけがない。すぐにやや沖目に仕掛けと撒き餌を合わせてキープサイズを3匹連続で抜き上げた。やばい。私の方は潮の流れがほとんどないうえに、正面左から風が出てきて思うように仕掛けがなじまない。撒き餌とも同調しない。そこで2ヒロのハリスの中にジンタンの4号を2個段打ちにし、その分風に負けないように道糸修正しながら撒き餌の同調を心がけた。すると私にもアタリ。なんとか2匹を追加して3-3の同匹数で終了し、辛くも重量差で勝ちを収めた。

若干25歳、将来末恐ろしい

 つづいて2ラウンド。若干25歳の重村さんとの対戦である。Cポイントでは1ラウンドで中原さんが規定サイズを8匹もキープしていた。私がジャンケンに勝って右側角に立った。ここでは様子見に1ラウンド後半に使ったそのままの仕掛けを足下に入れてみた。すると1投目からキープサイズのグレ。幸先良いスタートに小型ながら規定前後のグレが入れ食いパターンかと思わせた。それならより型狙いでいこうと、そのままガン玉を打った重ための仕掛け、タナは2ヒロ半から3ヒロのやや深めでコッパグレの下を狙った。しかし狙い通りとは行かない。思うようにアタリが出ない。相手の重村くんは規定ぎりぎりだが何匹かキープしているようだ。潮は私の方に有利なのに作戦ミスなのか。小型グレを狙わずに大型狙いに出た作戦が裏目に出た。Aポイント方向に流れていた潮が止まり、小型グレすら活性がなくなった。小型グレの中には何匹かキープサイズも混ざっていただけに時合いを逃し、読みを間違えたツケが後になって大きくのしかかる。後半左に代わってからは、とうとう1匹もグレのアタリをとらえることができなかった。重村さんも後半苦戦したが、沖合のわずかな潮の変化をとらえて唯一のグレのアタリをキープサイズで締めくくった。やな予感が的中して、この最後のグレが決めてとなり3-4で苦汁を飲んだ。あの状況下で、わずかな潮の変化をとらえ、遠投狙いに行った重村さんのセンスの良さが光る。

大将戦の行方は

 そして最終ラウンド。大将戦ともいうべきか、お互いにライバルと認め合う中原さんとの対戦である。これまで何度かG杯予選などでしのぎを削ってきた間柄ではあるが、直接対決は今回が初めてだ。この対戦だけは負けたくない。おそらく中原さんも同じ気持ちだろう。Aポイントは平家台の先端に位置し、いかにも潮通しが良さそうだ。水深もある。3ラウンド目に入ると撒き餌が十分に入っているので餌取りが多い。豆アジ、オセンがその正体だ。1、2ラウンドを戦ってきた状況でも、グレの数は少なく活性も良くない。私はジャンケンに勝って右側の釣り座で、ほぼ先端に足場を確保した。サラシと潮流の壁にできた潮目をダイレクトに狙った。撒き餌は足下から、仕掛けは沖にやや遠投し潮目に付け餌と撒き餌を同調させた。この釣りイメージは餌とり対策の一つでもあるが、このときは付け餌の生オキアミはウキにアタリがないままとられ、ウキ下を1ヒロ半まで浅くもしてみるがグレのアタリがない。どうやらグレの活性は低く、ある程度深いタナで横の動きをする程度のようだ。グレがいないわけではない。必ずいる。そこで付け餌をエサ持ちの良いくわせオキアミ半ボイルに変更。ウキ下は3ヒロから5ヒロくらいの間を出し入れ出し入れして探りを入れるイメージ。道糸を張って誘いをかけると着水線ぎりぎりに浮力調整した竹下ウキはジワジワとゆっくり沈んでいく、道糸を緩めて再びウキが復元してくるやいなやウキをさらに押さえ込むアタリが出た。本日一番の良型、30センチ近いグレが浮き上がった。ハリハズレなどで逃してなるまいとていねいに玉網に納めた。前半もう1匹キープして2匹。相手の中原さんも2匹はキープしているはず。後半に入って早々、中原さんが大きく竿を曲げた。これも良型のようだ。そして2連発。2-4に引き離された。このまま終わるのか。しかし前半でアタリが出た釣りイメージで左右、足下、沖目と考えられるあらゆる方向に仕掛け投入を繰り返し、残り時間20分、10分に1匹ずつ追加して4-4の同匹数に追いついた。結果はわずかな重量差で私の方に勝利の女神が微笑んだ。潮読みと撒き餌ワークには定評のある中原さんだが、グレの活性の低さに手こずったようだ。それは私も同様である。すべての対戦が終了し、港に帰って検量を済ませた。結果はプレーヤーズ・6勝-G1・3勝の完敗。この日は夕食をともにしながら技術交流会ももたれたが、プレヤーズのメンバーの中には、この対戦を一切竿を出さずに観戦していた人もあるほどで、トーナメントに対する取り組む姿勢の良さを感じた。地域が違っていても同じ志を持った者同士の集いは、なんとも心地いい。規定サイズ21センチ。たかが手の平サイズのグレ1匹に大の大人が一喜一憂する。ここには、何か一つのことにとことん打ち込もうとする男のロマンがある。

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