タルカゴたっちゃん仕掛けでマダイ、イサキを釣る
隠岐島前星神島でマダイ、イサキ釣り
先日ある人にこんなことを言われた。「小島君でもカゴ釣りするんだのー」て、いかにもグレやチヌのフカセ釣りしかしないというイメージがあるのか、その人は意外そうな顔をした。先月号の底カゴ仕掛けを見てのことである。
私が本格的に釣りにのめり込んだのは、高校を卒業した昭和57年頃からだ。車の免許を取って自分で自由に海へ釣行できるようになったからである。一旦は進学して都会に出るが、休みになるとわざわざ帰省して島根半島などの磯に通ったものである。当時島根半島はヒラマサやワカナがよく釣れていて、私もその強烈な引きと、やりとりのスリルに夢中になった。私の本格的な釣りはカゴ釣りからスタートしたのである。
私は回りのベテラン釣り師の横へ行っては、見よう見まねでタルカゴ三点仕掛けをマスターした。そしてこの延長の釣りとして、ハリスを8ヒロから10ヒロにしてマダイを狙ったり、夜釣りでは底カゴ仕掛けで釣っていた。隠岐に釣行するんでもフカセ竿など一切持って行かず、カゴ釣りオンリーだったのである。
磯釣りの基本がフカセ釣りにあり、その魅力に気づくのは、それから4年後、大学を卒業して地元に就職した昭和61年、釣りの師と仰ぐ竹下努さん(大田市)との出会いからである。また、その竹下さんと出会ったのが、当時ヒラマサフィーバーしていた日御碕のトモ島だったから皮肉なものである。
さて前置きが長くなったが、今月号は通称「タルカゴたっちゃん仕掛け」でマダイやイサキを釣ったのでその仕掛けや釣りイメージをリポートしよう。
7月19日、土曜日であるが午前中は仕事。午後の便で境港から島前に向かった。この便で行くと西ノ島町の別府港に着く。帰りは翌朝の海士港出向の便で境港に帰る。夏のこの時期は炎天下の昼間はさけて、夜釣り中心のこのパターンの釣行が多い。別府港には「ふたまた丸」に迎えに来てもらって沖磯に直行した。船は「冠島」を通り過ぎて西へ向かう。船長に最近の状況を訪ねるが、週末になると台風などで海が時化るので目立った釣果はないという。しかしこの日は久しぶりの好天に恵まれて、早朝からチャーター船でたくさんの釣り人が磯に立っていた。
なかなか空いた場所がない。星神島へ他の客の弁当をおろしていると、エゴの灘向きの磯が空いていたのでここに船を付けてもらった。
時間はすでに午後6時をまわっていた。すぐに図の仕掛けをセットして前方に見える「シシカ立島」方向に投入した。潮は左から右「エゴ」の方にゆっくり流れている。
この仕掛けは通称「たっちゃん仕掛け」と呼ばれている。話によれば桜江町にある釣具店「つりたつ」のご主人、横田達夫さんの考案らしい。私もこの仕掛けを愛用させてもらっている。
私は以前からも、大三点仕掛けのデメリットである取り込みの不自由さ、手返しが遅いこと、ハリスなどのトラブルが多いことなどから、タルカゴに水中ウキを組み合わせた遊動仕掛けでマタイを狙っていたものである。このときはタルカゴと水中ウキの間にからまん棒を使って投入時に絡まないように工夫していた。それでも風向きなどによっては、ウキと水中ウキと支点が2点になることからトラブルとなって棚がとれていなことも多かった。「たっちゃん仕掛け」は、市販のパイプ天秤を使うことによって、糸の絡みなどがほとんどなくなった。
このようにトラブルが少なくなったことにより、夜釣りでもこの仕掛けで狙えるようになった。
この仕掛けにはもう一つ大きなメリットがある。固定式の三点仕掛けだと潮と風が逆の時で、特に横風が強いと、風や波で仕掛けが潮上に流されてしまい撒き餌と付け餌が同調しない。こんな時「たっちゃん仕掛け」でウキ止めを付けずにスルスルにしておけば、タルカゴが大きくポイントから離れていっても、水中で仕掛けは潮を的確にとらえ撒き餌と付け餌を同調させることが出来るのである。
さらに自分のイメージで、ハリスの長さから海の水深となる底付近まで自由に棚を探れるというメリットもある。
まさに「たっちゃん仕掛け」は、フカセのメリットを活かして遠くのポイントを攻めるタルカゴ三点仕掛けの、デメリット部分をほぼ補った画期的な仕掛けだと私は思っている。
今度は釣り方だ。三点の欠点を補ったといっても、ハリスに何も付けないで自然に流し込む三点仕掛けと同じようにはなかなか行かない。それをカバーするのがテクニックである。「たっちゃん仕掛け」では、最初水中ウキが先行して沈むのでハリスがVの字状態になる。そこで、狙った棚でいかに付けエサが自然な状態で流れるかをイメージしながら道糸を操作するのである。
これは感覚的でアバウトなところがあるので、最初はなかなか難しいかもしれない。水中ウキがある程度沈んで潮流をキャッチしはじめると、道糸を引っ張る感触が糸を押さえる指先に感じてくるものである。まわりの自然条件を考慮しながら道糸を送ったり、止めたり、引いたりしてヒットポイントを探っていくのである。そして、今どのあたりの水深で仕掛けがどういう状態になっているのかを常にイメージしておくことが大切である。
最初は、ウキ止めを付けないでフリーで釣り始めることが多いが、潮の速さや風など自然条件や水深、瀬の状態、エサ取りの状況などで、ある棚を設定しウキ止めを付けて、その範囲内を探りながら釣る場合もある。
この日も最初はフリーで釣り始めた。30分ほどアタリがなく付け餌が取られ続けていたが、午後6時30分、風と波を利用して張らず緩めずといった感じで道糸を送り込んでいると、アタリが道糸からダイレクトに手元まで伝わってきた。フリーにしていたウキもアタリの勢いでスパッと海中に消えた。竿を立てるとまずまずの手応え。まずは幸先よく52センチのマダイを取り込んだ。
よく見ると沖合い約50メートルのところが潮道になっているようで、波立たない帯が西の彼方に延びている。その潮道に仕掛けをなじませようと、それよりも10メートルほど沖を狙って投入した。仕掛けがなじみ水中ウキが道糸を引っ張る感触が伝わってきたところで、竿をあおって道糸を修正、また少し道糸を送り込んだ。これが誘いとなったのかその直後にアタリが出た。仕掛けが狙っていた潮道に入った途端である。夕マズメまでにこの潮が続いて、61センチを頭に45センチ以上のマダイを立て続けに5匹取り込んだ。
夜釣りになっても「タルカゴたっちゃん仕掛け」で攻めた。タルウキをケミホタルが装着できるように改良したものに取り替えて、後は昼間と全く同じである。
日が暮れるとマダイのアタリは遠のいたが、少しの間をおいて今度はイサキが食いだした。入れ食いとまでは行かないが、一晩中ぽつりぽつりアタリがあり型もまあまあで、30センチから37センチを20匹釣り上げた。その他、マダイの40センチ級を2匹追加した。
途中で潮が緩くなったり、「エゴ」鼻の方へ戻されて仕掛けが底瀬に引っかかったりしたので、水中ウキから5ヒロあたりにウキ止めを付けて流した。このウキ止めは状況の変化に伴って浅くしたり深くしたりする。これもウキから下の仕掛けの状況をイメージしながらのことである。
朝マズメには、また、前日のようなマダイラッシュを期待したが、午前4時頃から強い突っ込み潮になって釣りにならなくなったので早めに納竿とした。
この日は、予定通り午前の便で帰って午後からは、また仕事に出掛けた。ハードなスケジュールとなったが、狙い通りの納得のいく結果に忙しい日程をやりくりしでも釣行して本当によかった。日頃のストレスがいっぺんに吹っ飛んで、体は疲れているはずなのに、なんだかすがすがしい気持で仕事に励むことが出来たのである。
場所 | 隠岐郡西ノ島町「星神島」 |
日時 | 平成9年7月19日午後6時から 20日午前7時まで |
風 | 南東 弱い |
波 | 0.5~1.0メートル |
水温 | 24度 |
潮 | 大潮 |
付けエサ | オキアミボイル |
撒きエサ | オキアミボイル |