隠岐・島前、内海の釣り
管つきウキが有利なのはなぜ?
ホーホケキョー、チッチッチー、ケンーケンー、ここにはいったい何種類の鳥たちが住んでいるのだろうか。さわさわと木々か風に揺れる。放牧された黒和牛がのっそのっそと海岸縁まで降りてきた。なんてのどかなんだろう。今ここで釣り糸を垂れる自分は、なんて幸せ者だろうかと・・・考える。
海が病院、船長が医者?
まるっと1ヶ月ぶりの釣行は、先月号で予告していたとおり4月3日、4日のGFG島根支部チヌ釣り大会参加である。場所は隠岐・島前、中ノ島(海士町)の内海だ。しかし考えてみると1ヶ月も全く釣りに行かなかったのは、大学を卒業して本格的に磯釣りを始めてから初めてのことではなかろうか。よくもまあ、我慢できたものだと自分でも驚く一方、無意識のうちに体中に吹き出物が出てきて、「こんなものが出る年頃でもないし、病院にでも行って診てもらおうか」と思ったほど。それがどうだろう、今回の釣行から帰ると、背中全面に出ていたブツブツが、きれいになくなっているのだ。私には無縁だと思っていた・・・これがストレスなのか。「毎週のように釣りに行って当たり前」、の私にとって、釣りがこんなにも心の支えになっていようとは・・・、知らず知らずにたまってくるストレスを解消し、心身をいやしてくれていたのだ。私にとっては、釣り場が病院、渡船の船長が医者かカウンセラーのようなものだ。そして、私の五感を通し生きる力を与えてくれる「釣り」そのものがホスピスなのである。いつしか、私がこの世を去るときは、釣りをしながら逝けたらどんなに幸せだろうか・・・。
仲良くチヌ1匹ずつ
4月3日、午前5時30分、天候に恵まれ予定どおり「ふたまた丸」のチャーター船で七類港を出発した。GFG島根支部としては始めての単独開催となるが、西は益田から地元隠岐からも、さらに鳥取支部からのオープン参加者2名を加えて総勢20人の参加があった。
さっそく最近の状況を船長に訪ねてみるが、今シーズンまとまった客は今回がはじめてなので、「どうだろうかねー」と、自信のない返事。特に打ち合わせはしていないが、須賀港の北側「バクチ」から「唐橋のカド」「黒崎」「ようのきウラ」「ようのき」「シダガ崎」「電信」と、くじの順に渡礁していった。「まだ早い」と思われていた隠岐釣行を計画した1人として、みんなの釣果は気になるところだ。
私は大田市の佐藤保夫さんと共に「ようのきウラ」で竿を出した。磯上がりしてすぐに水温を測ってみると海面温度13度。この時期としては平年並みだろう。「ようのきウラ」は「ようのき」よりも出鼻になっているが、もともと無名磯だったので最初に実績があった「ようのき」にちなんで名付けられたのだ。このポイントは、昨年4月中旬にチヌやマダイが良く釣れ、周辺でも1級磯にランクされるだろう。
「ようのきウラ」は、先端西ノ島方向に2~3ヒロの比較的浅い砂地が約30メートル沖まで広がっている。この浅瀬の南側がカケアガリとなっておりチヌの好ポイントだ。周辺には海藻も多く、砂地、足下からの岩礁、ゴロタ石、とチヌの好む条件は揃っている。カケアガリが終わって「黒崎」方向には水深8ヒロ以上と深くなっており、ここから大ダイが姿を現す。一度は竿を出してみたいポイントだ。
ここでの釣果は、私が48センチのチヌ1匹。佐藤さんが43センチのチヌ1匹と仲良く1匹ずつ。その他30センチ前後のマダイが数匹上がった。
釣り場で技術交流
「ようのきウラ」から「ようのき」は歩いて移動ができる。「ようのき」では今回ゲスト参加の鳥取支部、陶山治美さん(淀江町)と塚澤明さん(米子市)が竿を出していたので様子をうかがってみた。「全然だめですわー。ここのチヌ釣りは初めてなんです。どうしたらいいんですかねー」と質問が飛んできた。さっそく私も自分の竿を持ち込んで、技術交流会が始まった。違う地域の釣り人同志が技術交流するのは、今回のような大会の意義でもある。
彼らは揃って円錐ウキを使用していたので、私は、円錐ウキと管付きウキの特徴の違いを自ら愛用する竹下ウキで実践して見せた。なぜ私が隠岐・島前の内海で管付きウキが有利だと思うのかを説明した。
まず、ポイントの特徴から1.潮の流れが緩く、釣り座では横潮を釣ることになる。2.足下から沖に出る潮、サラシはほとんどない。3.風の影響を非常に強く受ける。 4.遊動仕掛けで深いタナを釣ることが多い。5.手前は海藻で覆われているところが多く、沖のカケアガリをダイレクトに攻めるので遠投が必要。であることを説明した上で、「このような状況から、本来管付きウキが持っているメリットを有効に活かすことができる」と、実際にやって見せた。
仕掛けがなじむスピードが釣果を分ける
二人はそろって「本当だ」と声を出した。円錐ウキ仕掛けと管付きウキ仕掛けを列んで投入。同じ距離位置から6ヒロのタナになじます。ガン玉はともにBを1個使用。ジワジワと道糸の重みなどで仕掛けは手前に戻ってくる。管付きウキの方はほんの数秒でなじみウキを安定させかすかな潮流を捕らえた。一方円錐ウキは、ほんの数秒間だが遅れて仕掛けがなじんだことをウキの浮力点でそれを知らせた。隠岐・島前の内海では、このようなほんの数秒間の差が釣果を分けるのである。実際に管付きウキを使う私の仕掛けは狙ったカケアガリに付け餌をはわすイメージが完成して、2投連続マダイのアタリが出た。円錐ウキ仕掛けの方は仕掛けがなじんで安定するまでのほんの数秒間の間に風や波などの影響を受け、仕掛けが手前に戻りすぎてうまく潮に乗らなかった。それならば落とし鉛を重たくすればよいと思われるだろうが、緩い潮の流れで起伏に富んだ海底に付け餌をはわすイメージで送り込むには、なるべく軽い仕掛け設定にしたい。
道糸とウキの接点に注目
このことは、それぞれのウキと道糸との接点の違いから道糸の滑りに差がでたものだ。円錐ウキは道糸との接点が長いのに対して、管付きウキの接点はスナップ付きサルカンの穴のみである。円錐ウキで少しでも道糸の滑りを良くしようと開発されたのがガラス管入りの「大知ウキ」。また、管付きウキを使っても道糸とのジョイント部分にセル玉など不要なものを付けていたのでは、本来の管付きウキの利点を十分に引き出せないので注意が必要だ。
ここで誤解しないでほしい。私は、ウキとして管付きウキが「上」で円錐ウキが「下」だといっているのではない。お互いの持つ特徴を十分理解した上で使いこなしてほしいのだ。最終的に「自分は円錐ウキだ」という人でも管付きウキの利点を知ることで釣りのバリエーションが広がるだろうし釣り技術の向上となる。そのことは管付きウキを使う私にとっても同じことだ。全国大会などで交流のあった宮川氏、松田氏、大知氏、立石氏、三原氏などのウキは、私の家の道具箱に今でも収まっている。時々使い比べてみては、新しいアイデアが生まれてくることがある。
陶山さんと塚澤さんはまだ若いが、すでに自分の釣りスタイルを持っていてかなりの腕前だ。特に陶山さんは今年のG杯チヌ釣り選手権の出場権を獲得していというから、二人が私の釣りを見たからといって、急に管付きウキに切り替えることはないだろう。しかし、何かヒントを得て自分の釣りに取り込んでやろうという前向きな意欲が感じられた。この前向きな姿勢が上達の秘訣であるのだと思う。
今年も大ダイ、ラッシュか?
さて、時期が早いと思われた隠岐・島前の全体のチヌの釣果は、2日間で50センチオーバー3匹を含む20匹。そしてなんと言っても参加者全員をビックリさせたのが、3日、「黒崎」で釣り上げられた82センチの大ダイ。釣ったのは出雲市の飯塚宏行さん(G1トーナメントクラブ)で、2号ハリスで釣り上げたテクニックは「お見事」の一言だ。
今回の私の釣果は、初日のチヌ1匹であったが、年度変わりの何かと忙しい毎日の中にも楽しいひとときが過ごせたことに感謝したい。 大会の結果は、チヌの釣果3匹の総重量で、次のとおり(敬称略)
優 勝 林 能伸(大田市) 4510キロ
準優勝 野津益伸(西郷町) 3430キロ
3 位 岩根 勉(仁摩町) 3240キロ