底カゴ仕掛けでもフカセ釣りと同じイメージで流す。
底カゴでマダイ釣り。(隠岐島後大鼻島)
7月4日、この日はウイークデーであるが私は西郷町で開催される会議に出席するためネクタイ姿でフェリーに乗り込んだ。もちろんせっかく隠岐まで行くのだから釣りをせずにはいられない。大きなクーラーに竿ケースそれに磯バックと、私のネクタイ姿以外はいつもの隠岐釣行パターンと同じである。
午後3時、まだかまだかとはやる気持ちを抑えながらも、会議がやっと終わって足早に会場を出ると、ロビーで見たことのある顔がニタニタとこちらを伺っている。釣友の後谷進さん(頓原町)だ。お互いに目で合図をしあって一目散に西郷港に直行した。
後谷さんとは事前に何らかの連絡を取っていたわけではないが、まさか同じ会に出ていようとは奇遇である。それにしてもお互いに考えていることは同じであるが、目で合図しただけで意志が通じ合うというのもなんだか恐ろしい。
そんなこんなで、この日はレインボーや飛行機が欠航するほどの大風。南西から西よりの風のため西側の磯はほとんど全滅で、しかも回り風の影響で飯美から北方面も無理のようである。それでも日新丸の船長は「布施のあたりだったら大丈夫だよ」という。どこへあがれるか分からないがまずは船に乗り込んで出発した。
大久のあたりまで行くと風裏になり波は穏やかであるが、回り風がすごい。カビ島を通り過ぎて布施に入っても風で海面の水が吹き上げられ虹が出来るほど強烈だ。その強風を避けるように長島、大黒島などに釣り人が集中していたが、幸運にも一級磯の「大鼻島」が空いていたので渡礁した。ここにあがるのは私も後谷さんも初めてだ。この島は図のような形をしているが、先端が矢のようにとんがっていてそのまま海中に落ち込み約20メートルほど瀬となってのびている。その南北は急激な深みになっているようである。
午後5時、図のようなマダイ狙いの底カゴ仕掛けで釣り始めた。通常、隠岐でマダイ狙いならチヌ、グレのフカセ釣りの延長で狙ってみて、次にタルカゴ仕掛け、それでもだめなら底カゴ仕掛けへと展開させていくのだが、今回は強風であることやポイントの水深が深いこと、潮が速いことなどの自然条件や夕マズメの時合いまでにあまり時間が無いことなどの理由で初めから底カゴ仕掛けで狙ってみることにした。水深のあるポイントではマダイを寄せて浮かすのにある程度時間がかかることを想定して、ダイレクトにマダイの棚に落として探っていくというイメージである。そしてカゴ仕掛けなら当日のような強風の悪条件でも狙った棚に早く確実に落とせるので、一投一投の手返しを早くできるしトラブルも少ないと考えた。
私は、底カゴ仕掛けでもフカセ釣りと同じイメージで流せるように、ウキは竹下ウキや峯ウキと同じ管付きウキを使う。管付きウキのメリットは道糸が水中に入り込むので横風の影響が少なく潮筋から仕掛けがはずれにくい。横潮の時も同様で、感度も抜群にいい。なんといっても私が一番気に入っているのは前述したようにチヌやグレ釣りでいつも愛用している竹下ウキや峯ウキと同じイメージで釣りが出来るところである。仕掛けを止めたり誘いをかけたりするとジワッと仕掛けを押さえ込むように潜っていき微妙な誘いを演出してくれるのである。
ウキと道糸のジョイント部分はやはりフカセ釣りと同じようにスナップ付きサルカンを使用する。これがそのままウキ止めに引っかかるようにするため穴を少しペンチで小さく調整して使用している。この方が中通しウキよりも道糸の通りがよく軽いオモリでも早く棚をとることが出来る。ただここで注意する点は、ウキゴムとからまん棒を使って天秤とウキの間をウキの長さほど離しておくことである。これは仕掛けのバランスをよくして投げやすくするためと、ウキにハリスが絡むトラブルを防止するためである。そしてもう一点、投げるときに道糸とウキのサルカンの部分との接点に強度の加重がかかり道糸を傷つけてしまうので、からまん棒で止めたウキの方の部分に道糸保護用ウレタンパイプ(図参照)を通しておくと心配ない。
天秤は「発光パール天秤」を使っている。この天秤はL型の遊動中通式になっているためカゴオモリの抵抗が少なくアタリが敏感にキャッチできる。しかもハリスなどの糸絡みのトラブルはほとんどない。
カゴオモリはふた付きの市販のものを使っている。号数は6号から12号までを使うが8号を使うことが多い。潮が極端に速いときや超遠投が必要なときには15号の小型のカゴを使うこともあるが、なるべくオモリが軽めのカゴを使うようにしている。
竿はがま磯シマアジ専用を使用している。この竿の特徴は穂先が太く仕上がっている割には6:4くらいで胴にのりやすい設計になっていて、素材もよく反発力が強い。軽めのオモリやタルウキをソフトに振り込んでも遠投が出来るので気に入っている。元々、引きが強い割には口が柔らかくソフトなやりとりが要求されるシマアジを対象に作られた竿なので、手前に来てからの大物の締め込みにもリールの糸を逆転することなくためられるのもいい。
隠岐のマダイ釣りは80センチオーバーの大型がヒットする確率が高いし、特に底カゴ仕掛けは棚を深めにとることが多いので瀬ズレなども想定して中途半端な細仕掛けはせずに思い切って太めのタックルにしている。
後谷さんも私の仕掛けに賛同してくれて全く同じ仕掛けをセットして釣り始めた。
4日の夕マズメの潮は先端の底瀬をかすめて長島方面に速い潮が流れていた。ウキ下をカゴまで13ヒロに設定した仕掛けを底瀬から北側約30メートル付近に投入して流す。長島方向からの強風と潮は逆方向だがウキは風と喧嘩しながら流れ出した。この状態なら何もしないでもカゴや付け餌をウキよりも先行できるので、後は道糸が風にながされすぎないように修正してやればよい。これも、普段のチヌやグレの釣りイメージと全く同じである。
釣りはじめて5投目の午後5時30分。私のウキにアタリが出た。棒ウキが波間からスポッと視界から消えた。風でふけていた道糸が張るのを待って竿を立てる。以外に早くからアタリが出て驚いたが、引きもなかなかのものである。ジワリジワリと足下まで寄せて海面にウキが見えだし、ピンクの魚体を想像して少し身を乗り出した途端。フッと竿先がはじかれた。姿を見せるか見せないかの間際のハリ外れに全身の力が抜けてガックリだ。引きの強さから60センチはゆうにオーバーしていただけに残念でならない。
それでもさい先よくアタリが出たので、これからの夕マズメと夜釣りに期待をかけて振り込みを繰り返した。バラシが響いたのか午後10時を過ぎても本命のアタリが全くない。餌取りもいない状態で、ウキ下を最高18ヒロまで落としてみるが釣果はなかった。その後潮も止まり加減になったので食事をとったり少し体を休めた。
翌朝午前4時。東の空が少し明々としてきたが、この日も風は全くおさまる気配を見せない。潮は昨日とは逆に南側に流れていて、足下は瀬をかすめた潮が渦を巻いてかなり速い。今度は仕掛けを瀬の南側に投入して流す。潮が速いのでアッという間にカビ島方向に100メートルほど流される。そこでカゴに入れるマキエのほかに、足下からもオキアミを手撒きにして、仕掛けがなじんで潮目に到達した約30メートル地点で仕掛けを止めてみた。まだ薄暗いせいもあるがウキは潜って全く見えない状態。しばらくこの状態で待っていてもアタリがないので少し道糸を送り出した矢先だ。スルスルと潮の速さより何倍も速く道糸が走り出した。すぐにリールのスプールに手をあてて道糸を止めると、今度はグーンと竿にもたれかかってきた。体全体で竿を立てて引き寄せると最後に瀬の方に強く絞め込んだが、竿で十分ためてしばらく耐えているとピンクの魚体が波間に見えてきた。結構デカイ。後谷さんにタモですくってもらって無事取り込んだのは75センチのマダイだった。このときのウキ下はカゴまで10ヒロ。午前4時30分だった。その後、後谷さんにもアタリがあって53センチのマダイを取り込んだ。また、納竿前の午前9時30分頃に後谷さんに強烈なアタリがあったが惜しくも逃してしまった。
結局、マダイ1匹ずつと、バラシ1回ずつの結果であった。
私も6月まではチヌ釣りが中心で競技会なども多かったので、今年はじめて底カゴ仕掛で仕留めたマダイだった。底カゴ仕掛けでもウキから下の海中の部分がどのように流れているかを常にイメージしながら釣ることが大切である。同じ棚をとっているからといってただ流しっぱなしでは釣れるものも釣れないのである。このことはフカセ釣りのイメージと同じことであり、フカセ釣りの応用を底カゴやタルカゴ仕掛けに活用し、また逆にそれらの応用をフカセ釣りに活用するのである。磯釣りは限られた条件の中でいかに自分の釣りイメージを展開して、狙った魚を仕留めるかというところに面白みがある。釣れなかった結果だけを見て、「やれ風が強かった」「やれ潮が悪かった」と自然条件を理由に言い訳をしがちだが、それを克服して得た釣果こそが価値がある「G1」な結果なのである。
釣行データ
平成9年7月4日・5日
隠岐郡布施村「大鼻島」
天気晴れ・南西から西の風かなり強い
波の高さ1.5m
水温 21.8度