的確な状況判断がトーナメントを制す
マルキューカップ98
立石宗之選手初優勝!
私にとって平成10年最後のトーナメント戦となる「’98マルキューカップグレ釣り選手権決勝大会」が11月27日、28日、愛媛県宇和島市の日振島で行われた。この大会には、各地区の予選を勝ち抜いた20選手と昨年の第1回大会のシード選手4選手、さらにマルキューの四国地区インストラクター4選手がメーカー推薦で加わり合計28選手で競われた。
メーカー推薦選手には豪華な顔ぶれがそろっている。濱口正春さん、小里哲也さん、江藤弘則さん、立石宗之さん、そして昨年のシード権を持つ三原憲作さんと、いずれもグレ釣り界のスーパースターたちである。
私自身もこの大会参加については何ヶ月も前から楽しみで楽しみでならなかった。それもそのはず前出の名手たちに会えるからである。もしかしたら対戦できるかもしれないのであるから何日も前からワクワクして気持ちを抑えるのに苦労したほどである。
抽選のくじは気合いを入れて
前日の夜に懇親会を兼ねた前夜祭が開かれ、そこでルール説明や抽選会が行われた。試合方式は、4人一組の予選リーグ戦をそれぞれ戦い、勝ち点による上位1名が準々決勝トーナメントに勝ち上がる組み合わせになっている。まず最初にメーカー推薦選手5人が各ブロックに分かれるようにくじを引いた。続いて一般選手が引いていく、私は心の中で「立石、立石・・・」と念じながら気合いを入れて引いた。すると本当に立石さんがいるブロックを引き当てたのである。これには自分でも驚いてしまった。
立石さんといえばこの大会の前週、シマノジャパンカップを優勝したばかりで目下絶好調である。絶好調というよりもシマノジャパンカップは今回で6度目、先月号で紹介した報知グレ釣り選手権においては5度の名人位に就くなど、名実ともにグレ釣り界の頂点に立つ1人といっても過言ではないだろう。
大会に出かける前、釣友たちに「立石さんとやりたい」としきりに話していたこともあるが、同じ大会に出られるチャンスなどは後にも先にも今回限りなのかもしれない。どんな釣りをされるのか立石さんの釣りも見たい、そんな気持ちで引いた「当たりくじ」である。
あと一歩及ばず
大会当日は、北西の季節風が強く吹き付けコンディションとしては決して良くな状況だが、なんとか日振島本島で予選リーグ3試合を戦った。私は、1試合目、「10番の岡」で北代選手(四国)と対戦し規定サイズ23センチ以上のグレ2匹を釣って勝利、続く2試合目、昨年のシード山本選手(四国)と「7番」で対戦し、4匹を釣ってこれも勝利した。2連勝して予選リーグ最後の対戦は、くじで引き当てた立石さんとの対戦である。立石さんはここまで1勝1引き分けできていた。
立石さんとの戦いは、2戦目と同じ7番の磯で始まった。ここでもし私が勝てば文句なく準々決勝へ駒を進めることができ、逆に負ければ立石さんが勝ち点で上回ることになる。対戦できるだけでもラッキーなのに、あわよくば大金星をあげるチャンスでもありワクワクする気持ちを抑えようがない。ここまでの釣況は、強風という悪条件に加え、1試合わずか80分という対戦時間では規定匹数の9匹を釣る選手は1人もなく、全選手がグレをくわせるのに苦労したようである。
私たちも苦しみに苦しんで、お互いにグレを1匹ずつ釣り上げ検量の結果、立石さんの勝利となった。試合展開は、前半まず私が1匹先行する形になったが、立石さんは、場所交代した後半残り時間10分のところで喰い渋るグレをとうとう釣り上げてしまった。「立石さんの方がデカイ」と玉網に収まった瞬間確認できたので、終了時間ぎりぎりまで最前を尽くしたのだが、グレを追加することはできなかった。
釣りにストーリーがある
対戦してみた立石さんの印象は、勝負に対する厳しさ、試合に対する集中力の高さなど静かな気配の中にも凄みを感じた。最初の場所決めジャンケンなどでも気合い十分、真剣そのものである。
釣り自体に関しては、大会2日目の決勝戦を磯の高台から立石さんの師匠的存在である小里さんと一緒に観戦することができた。私なりに表現すれば「釣りにストーリー性」があるとでもいおうか、とにかく状況判断が的確であり「最初はこう、次はこう、その次はこう」と展開が実にスムーズで的確である。釣りをせずに高台から観戦していれば、潮の状況、魚の動きが一目瞭然でそのポイントの状況が的確に読める。しかし実際にはトーナメントを戦いながら、自分の釣り座で的確な状況判断をし、自分の釣りをするのは非常に大変なことである。できたとしても気づくのに時間がかかったりするものだが、立石選手は、われわれが思ってるとおりに的確に自分の釣りを展開していった。
前半潮下に入った立石選手は、15メートルほどのところへ撒き餌を入れ仕掛けはそれよりもさらに沖の方へ投入してなじませた。最初のウキ下は2.5ヒロ程度だろう。アタリはすぐにあった。しかし規定サイズに満たない。するとすぐに道糸を操作して3ヒロ、4ヒロと棚を取って、キープサイズをコンスタントに釣りはじめた。時間が経つにつれてグレの群が沖に移動したのを見計らって、ガンダマを追加し、ウキごと沈ませていった。小さなアタリをわざと見送って十分仕掛けを送り込んでから本アタリをアワセてキープサイズを追加していった。
圧巻だったのは後半に入ってからだ。潮がゆるんでグレの活性が悪くなり魚影が底に異動したのを見計らって、思い切った仕掛け変更に踏み切った。ウキのすぐ下に4Bのガン玉をつけてタナを竿2本分までおとした。仕掛けがなじんだ後も微妙に竿先を操作して誘いをかけているように見えたが、この作戦が見事的中して、30センチ近い良型をつぎつぎ釣りだした。数々のトーナメントを制しているだけあってルールの把握、時間の配分など、規定のサイズの魚がどこにいるのか、次は規定サイズのグレを規定数の9匹キープしたらさらに大型狙いに切り替えるなど、準決勝以上のトーナメント戦では相手が付け入るすきもなく圧倒的な強さでマルキューカップの栄冠を手にした。予選リーグではわずか2匹のグレしか釣らずとも、我慢し、冷静な状況判断で対戦相手には着実に勝っていく。立石選手のトーナメンターとしての勝負強さが光った大会であった。
また、この大会は、主催者マルキューの魚や自然環境、釣り人を大切にするという姿勢が随所に見られ、参加選手たちは、勝っても負けてもすがすがしい満足した気持ちで帰路についたことだろう。