小島一文の
“G1フィッシング”

G1フィッシング

私の釣り人生(前編)

ミレニアムから21世紀へ「竹下ウキ」との出会い(前編)

釣りをしない人を哀れに思うほど釣りはおもしろい
釣りはほんとうにおもしろい。

 どうしてこんなにおもしろいんだろう。

 自分が楽しむだけではおさまらず、釣りをしない人たちに対しても「こんなに楽しいことを知らずに、人生を終わってしまうのか」と、あわれに思ったりもする。

 まあ他人のことはよけいなおせっかいとしても、どうしてこんなにおもしろいのか。釣りはいくらやってもこれでよいということがなく、行き着くところがないからだと思う。そこにはいつも予測できないドラマがあり、今度はあーしよう、こーしようと常に向上しようとする前向きな自分がある。そんな自分が好きで好きでたまらない。まわりにいるそんな釣友たちが好きで好きでたまらないのである。人が好き、自分が好きになると生活全般が明るくなり、毎日が楽しくて楽しくてしょうがない。少々嫌なことがあってもすぐに吹っ飛んでしまう。そして「いつも少年のような気持ち」を忘れさせない釣りは、私にとってかけがえのないものになっている。デジタル時代だのIT革命だのといわれているこの時代だからこそ、自然と対等につき合える「釣り」がいい。そして正しく釣りを楽しもうとする人たちの「心」がいい。新しい時代を迎えようとする今だからこそ、自然環境を大切にし、人と人との心のつながりを大切にできる釣りをずーと楽しみたいものである。

名人ウキはなぜ良く釣れる?

 というわけでやってもやっても行き着くところのないのが釣りなのであるが、本格的なシーズンを迎えたグレ釣りも日々悩むことが多い。悩みの項目はポイント、タックル、餌、その使い方などあげればきりがないが、その中で最もグレ釣り師が重要視しているのがウキではなかろうか。ことグレやチヌを釣るためのウキは大きく分けて中通し円錐ウキと管付き棒ウキとがあるが、その種類はいったいいくつあるのか。フカセ釣りウキだけをテーマにした本が何冊もできるほどであるからその数は想像もつかない。最近ではグレ釣り名人たちの手づくりウキが全盛期であるが、なぜ名人ウキが良く釣れるのか、なぜ名人ウキがよいのか。そしてなぜ私が多くのウキの中から竹下ウキを使うのか、どんどん進化していくウキに対するイメージを2回に分けて紹介する。

 まず名人ウキがなぜよいのか。長い経験と実績の中から生まれた名人ウキは、その作者である釣り師の釣りイメージがそのウキに集約されていると言ってもよい。だからその名人ウキを使うと言うことは、作者である釣り師の釣りイメージや考え方をも想像し、取り入れながら使いこなすことが重要だ。作者がウキ一つひとつに込める気持ちまでもを想像して使ってみると、今度は今までの自分にはない釣りイメージが展開してくるものである。これは釣りの技術的なレベルとは関係なく、感じることは人それぞれに違っていて当然。要は取り組む姿勢の問題なのだ。情報量の多い今だからこそ名人のものまねも上達の近道であり、その中から自分なりのスタイルを見つけていけばよいのである。道具、特にグレを釣るのに重要なウキだからこそ、自分が信頼して使えるものでなければならない。そのウキそのものの機能・性能も大切だが、最も重要なのは作者である名人と自分の釣りスタイルを重ね合わせながら、ウキを通して作者の釣りイメージが浮かび上がってくるところにある。金儲けの量産ウキに、作者の釣りイメージがわいてこないのは当然のことであり、信頼して使うどころかちょっと釣れなくなると不安になる。名人ウキは、「あの人のウキだから」というウキを通しての信頼関係が、一つのものを使い続けることができる精神的な裏付けになるはずである。一番よいウキとは何か。「それは、あなたがとことん信頼して使い続けることができるウキ」ということだと思う。とことん極めていき、気がついてみたら自分でウキを削っていた。今の名人ウキはきっとそんな発想で生まれてきたにちがいない。ウキとはきっとそんなものであり、これもまた、行き着くところがなく、グレ釣りを楽しくさせているところなのかもしれない。ある程度いろいろなものを使ってみるのもよいが、早く自分のスタイルに合ったウキをみつけて、使い込んでいくことが上達の早道だと思う。ただ言えることは「名人ウキ」=「だれでも釣れるウキ」ではないことを肝に命じてほしい。

一本のウキとの出会いが人生を変える

 私が竹下ウキを愛用しだしてから早12年の月日が過ぎる。このウキとの出会いは、作者の竹下努名人(大田市)との出会いであり、私の釣り人生の中で大きな転機が訪れたのもこの出会いがきっかけとなった。偶然、磯で見かけた氏に思い切って声をかけたのが始まりだったが、このときは日御碕の「ともしま」でヒラ狙いの釣行だったため竹下ウキを知る由もなかった。しかし、人との出会は不思議なもので、その後すぐに共通の釣り仲間を通して島根半島へチヌ釣りに出かける機会を得た。ここで初めて「竹下ウキ」を見た。当時私も円錐ウキなどの使用を経て「山陰の海には管付きウキがいい」と「遠矢ウキ」を使用していたのであるが、氏を含めて竹下ウキをセットした同行者らの竿が次々と曲がった。一人だけ竹下ウキを使わない私は、とうとう1匹のチヌも釣り上げることができないまま時が過ぎる。すると「そのウキもいいウキだが、このウキを使ってみないか」と氏はひかえめに竿ケースから竹下ウキを1本取り出し私に手渡してくれた。私はなんのとまどいもなく竹下ウキをセットしポイントへ流した。驚いたことにすぐにチヌがヒットしてきた。竹下ウキとの出会いはそれまでの私の釣りイメージが崩れ去るとともに、鮮烈な出来事として飛び込んできたのである。

 この日を境に私は何かにとりつかれたように釣行回数を重ねていった。もちろん竹下ウキを使っての釣行だが、負けず嫌いな私は、このときまだ、なぜあのとき竹下ウキでなくてはチヌが釣れなかったのか、答えが出せないままでいたからだろうと思う。それがどうだろう、その答えが明確に出せないまま釣行の度にグレやチヌを爆釣するではないか。自分でも半信半疑で次はあーしよう、こーしようと使っている。そしてまた、釣行の度に新しい発見があり50キロ離れた氏の自宅に通い詰めて質問を繰り返した。そうしないではいられないのである。氏は仕事の疲れも見せずにいつも温かく迎え入れてくれ、深夜にも及ぶ質問攻めに笑顔で答えてくれた。たかがウキ一本に磯釣りのほんとうの魅力を教えられ、釣りに対するイメージがどんどん膨らんでいき、ますます釣りに出かけることが楽しくなっていった。もし竹下ウキに出会わなかったら・・・氏に出会わなかったら・・・これほど釣りに夢中になっていたかどうか分からない。そんな意味でも氏にはただただ感謝するばかりである。

独創的なフォルムをもつ竹下ウキその可能性は21世紀に持ち越し

 竹下ウキは当初、竹下氏自身が使うために角材からすべて手彫りで削りだしていたものだが、その圧倒的な釣果が周囲の釣り人の評判になりアッという間に普及した。現在は島根県内の釣具店などで販売されるようになったが、粗削りの工程に旋盤機が導入されただけで、今でもすべて竹下氏本人の手作業で製作されている。だからバックオーダーは常に何百本単位と聞いている。

 私が竹下ウキを使う理由として次の点が挙げられる。

  1. 視認性がよい(棒ウキならではの見やすさ)
  2. 仕掛けが風の影響を受けにくいウキと道糸の接点が水中にある)
  3. 潮乗りがよい(ボディー・足長の部分が小さな流れをキャッチ)
  4. 遊動仕掛けにした時に深ダナを取りやすい
    (軽い仕掛けでも速く棚とりができる)
  5. 遠投ができ仕掛けのトラブルも少ない(トップ側に重心がある)
  6. 感度がよい(浮力点が肩の張った部分よりトップ側に設定してある)
  7. ウキのローテーションが容易にできる(スナップ付きサルカンによる接続)
  8. 絶妙の誘いが可能(そろばんの珠のようなボディー形状)
  9. 引っ張ると沈んでいく(足長、そろばんの珠のようなボディー形状)

 竹下ウキの素材には、朴(ほお)と桜の2タイプがある。長さは10センチから22センチ、浮力は1号からマイナスまであるが、全長16センチで浮力B~3Bがレギュラーサイズと言えよう。最近は素材そのものに比重がある桜材が多く使われるようになった。

 山陰地方の海の特徴から管付き棒ウキが多くの釣り人に支持され、竹下ウキと同じような特徴を持つ管付きウキも多く出回るようになったが、それでも私がたくさんある管付き棒ウキの中でもさらに竹下ウキを使い続けるには訳があり、このウキにしかできない釣りイメージがあるからだ。次号では、限りなく可能性を秘め進化していく竹下ウキと、そのウキが持つ特長から私が展開してきた独創的な釣法を紹介する。

 たくさんのバリエーションをもつ竹下ウキ写真左が平成元年、私が出会ったころのウキ今私たちの釣りイメージとともにウキも進化している。

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