小島一文の
“G1フィッシング”

G1フィッシング

メジャータイトルに大きな壁

報知グレマミヤOPカップ

メジャータイトルに大きな壁

 秋も深まりグレ釣りトーナメントまっただ中。私のこの時期のフィッシングライフは、グレ釣りトーナメントが中心だ。以前、本コーナーでもトーナメントの魅力について紹介したことがあるが、ただの趣味の釣りであってもさらに深く追求して行くところにおもしろみがあり、行き着くところのない奥深い魅力があるものである。
 山陰地方からこの釣りトーナメントに挑戦する人は他県に比べてまだまだ少ないが、それでも私が挑戦しはじめた10年前とは比べものにならないほど多くなった。私の周りにも同じ志を持った若い釣り師たちが集まってきている。
 このトーナメントで本戦の全国大会に駒を進めるには、中国5県で厳しい予選を勝ち抜かなくてはならず、その中から勝ち上がって全国の強者たちを倒し全国制覇するのは至難の技であり、夢のまた夢なのである。

「コジマ」対決実現

 10月16日、17日の2日間、愛媛県宇和島市で「報知グレ釣り選手権」があり出場した。私は前年3位のシード権があり2回戦からの出場。予想どおり私のゾーンから1回戦を勝ち上がってきたのは、平成8年この選手権を優勝して大知豊名人に挑戦したものの惜しくも準名人になった京都の生駒浩史選手である。
 審査規定は、釣ったグレ10匹の総重量。10匹以上釣れる状況なら相手よりもいかにして型のいいグレを釣り上げるかが勝負の決め手である。
 お互い数は釣るものの決め手がないまま後半戦へ。私は勝負をかけハリス0.8号にまで落とし、ウキ下を3ヒロから4ヒロと前半よりもやや深めに設定して攻めた。仕掛けは30メートルから40メートルと遠投。この作戦が功を奏したのか終了5分前に25センチ級のやや良型を2連発して強敵生駒選手を退けた。
 2回戦の後半で良型が釣れるパターンをつかんで3回戦では序盤から相手を圧倒。30センチ級も混じって今大会最高重量を記録し、2日目の準決勝まで駒を進めたのである。
 準決勝まで勝ち上がったのは6人。抽選の結果私は大阪の児島弘明選手と対戦が決まった。児島選手はシマノジャパンカップやJFTで活躍した名手である。いつかは対戦したいと思っていた「コジマ」対決が実現したのである。
 児島選手との対戦は九島の「立石バエ」。ポイントのすぐ後ろに道路が走っているようなところであるが、過去に立石宗之名人が記録的な釣果を上げたことからこの名前が付いているという。
 対戦が始まり数分後、撒き餌が効きはじめるとたくさんのグレが反応を示した。しかし型が小さい。手の平級の同寸をお互いに次々と釣り上げる展開になった。私は昨日までの状況で3ヒロから4ヒロの深目のタナで撒き餌よりかなり仕掛けを離して攻めてみた。しかし、決め手となるような良型が出ない。児島選手も同じような状況か。後半私は風下に入ったのでここで遠投勝負に出た。ここでもハリス0.8号に落とし、可能な限り仕掛けと撒きエサを遠投した。するとまたまた作戦が的中し良型が顔を見せた。ギャラリーから心地よい拍手が起こって勝利を確信した。

またしても大きな壁が立ちはだかる

 決勝戦は、やはり宮川明選手(大阪)、湯川武司選手(広島)が勝ち上がってきた。ともに実績十分のベテラン。二人はここ日振の磯にも精通している。だが、「初のメジャータイトルを飾るには願ってもないお膳立てが出来た」と、ひそかに闘志を燃やし、何が何でも勝ってやると気合いが入る。
 ポイントは確実に釣れる釣り場と言うことで名付けられた「十割」が選ばれた。試合開始直後から右隣りの湯川選手がいきなり30センチ近い良型を連発し先行。つづいて今度は左隣りの宮川選手が早くも入れ喰い状態に入った。私は「この勝負は数釣りではない」、今までの対戦状況から、型狙いの深ダナ・遠投作戦で釣り続けていた。しかしどうだろう浅いタナで次々に釣果を伸ばす両選手がだんだん気になりだした。特に湯川選手はすでに良型をキープしている。このグレの活性から3人が10匹釣るのは確実で、型狙いになるのは秘中である。
 私も一転、2ラウンドに入るとタナを浅くして数を釣るなかに良型をキープする作戦に切り替えた。最後の3ラウンドは風下のポイントにはいるので、これまでのように超遠投作戦で一挙に逆転を狙う戦法もイメージに入れてのことである。
 最終ラウンド。予想どおり3人共に数には問題がない。しかし前半に良型をキープしている湯川選手が断然リードしている感じである。「このままでは負ける」。私はイメージしていたとおりの超遠投で一発逆転勝負に出た。遠投勝負は手返しが遅くなるのだが、型狙いのためにはリスクも承知の上である。狙って5,6投目に「来た」。50メートル沖を流れるウキがゆっくり沈んで道糸が走った。やっぱり良型が喰いついてきた。そしてもう1匹。「よーしこれで互角の戦いができる。あともう1匹だ」。しかし時間がない。私の感触ではもう1匹良型を釣らなくては逆転できないと感じていただけに、最後はさすがに焦りが出た。ここへ来て前半の遅れが大きくひびいたような気がした。
 たくさんのギャラリーが見守るなか、大方の予想では前半をリードした湯川選手が有利と見られていたが、なんと検量の結果、宮川選手がわずか50グラム差で湯川選手を押さえていたのである。勝負への執念と自分の釣りを貫き通す集中力が宮川選手すごいところではなかろうか。型狙いとはいえグレをかけた数が私らと比べて断然多いのには驚いた。
 宮川選手はこのあと矢部卓名人(岡山)と名人戦を戦い見事29期報知グレ釣り名人位に返り咲いたのである。

海をなめとったらあかんゾ

 大会の数日後、1本の電話が私の自宅にかかってきた。それはなんと名人位に返り咲いた宮川さんからではないか。私は恐縮して受話器を取るといきなり「小島、海をなめとったらいかんぞ」と名人はいう。「えー」と、私が言葉を詰まらせると続けて名人はこういった。「おまえの釣りにはまだまだスキがいっぱいや、あんなんでは2位や3位はあっても冠取れへんで、あんな状態でもし70センチのグレが来たら取れるんか」。私は「ハッ」とその時思った。どうせこんな場所でせいぜい釣れても30センチ級止まり、勝負だけを意識しすぎて本来の釣りがおろそかになっているのを名人は対戦しながらもちゃーんと見抜いていたのである。「なー小島、おれかってこんな厳しいことだれにでも言わへん。それにアドバイスしてわしより上手になってしもうたらこまるもんな。しかしあえて仲間だ思うから電話したんや」。
 たかが釣りといえどもここまで真剣にやっているのかと頭が下がる一方、ここまでして私にアドバイスしてくれた心の広さに感謝するばかりである。海に対してグレに対して常に真剣勝負。どんな場面でも70センチ級のグレを想定して勝負に挑む真剣さ。報知グレで知り合い、今回で2回目の対戦。宮川明名人は大きな大きな壁ではあるが、名人は私に大きな目標と大きな夢を与えてくれたのである。このことは釣りだけのことにとどまらず、人生においての大切な教訓として日々の生活に活かしていきたいと思うのである。

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