真夏の磯も面白い。夜釣りでイサキ・グレ
朗報飛び込む
残暑厳しい今年の夏。いつになったら涼しくなるのだろうか。私が住む島根県東部では、ほとんど雨らしい雨も降らずに8月がもう終わろうとしている。釣り人にとっても、海、川、湖ともにまとまった雨がほしいところだ。
磯釣り師の我々にとって真夏の磯はまさに灼熱地獄。ここ数年ヒラマサフィーバーに沸いた昨年、一昨年に比べれば、今年は青物の回遊が不安定であてにならず、この地獄に立ち向かう元気が出ないのも仕方がなかろう。しかし、だからといってまったく釣りに行かないでは、ストレスがたまってしょうがない。まわりの人や物に被害が出る前に何とかしないと大変だ。そんなところに朗報が飛び込んできた。「イサキの入れ食い」、「マダイ、グレの良型も混じる」と言うもの。情報元は隠岐・島前西ノ島町三度からである。
8月上旬の情報だが、すぐに飛んでいきたい気持ちをグッと抑えて8月12日、13日の1泊2日釣りに出かけた。今回同行してくれたのは、同じクラブの石橋淳一くん(平田市)。彼もストレスがたまってそろそろ限界状態だったと言うから、今回の釣行はお互いに息もピッタリ、いい釣行になりそうな予感がある。せっかくの釣行も価値観が同じもの同士ならよいが、磯で「暑いだの、寒いだの、ああだの、こうだの」と弱音や泣きが入ると最悪だ。自然と遊ぶという覚悟ができていないのだ。終いに出る言葉は「もう帰ろう」である。
自然にふれあう機会を奪ってはいないか
子どものころの私はとにかく自然児だった。夏休みともなれば毎日、朝から夕方まで網をもって川で魚とり。頭からずぶぬれになって日暮れに帰ることもしばしばだ。だから「小島くんとは、もう遊ぶじゃない」と心配する友だちの親たちは、よく言ったものだ。
自然と遊ぶと言うことは、ある程度の覚悟が必要なものだが、私たちが子どものころから「あれもダメ、これもダメ」と自然にふれあう機会を、大人たちに奪われていたような気がする。そのあげくの果てが、部屋の中でゲームやビデオに没頭する子どもたちが増えた。このことと因果関係があるのかどうかは分からないが、信じられないような少年犯罪が多発するなど社会問題となっている。その少年のまわりにいる大人たちは決まって「おとなしくていい子だったのに」と口を揃える。近所で札付きの悪?だった私の場合、まわりが何と言おうと放任に育ててくれた両親に感謝したい。
超満員
さて、12日と言えばお盆の帰省客のピーク。超満員のフェリーでは、釣りの大荷物を積み込むだけでも大変だ。そこで私たちは、釣り人を七類から隠岐・島前の渡船基地まで輸送してくれる「海峡」(0852-72-3677)を利用することにした。料金は片道6,000円、往復で利用すれば10,000円となる。出港時間は釣り人のニーズに応じてくれるので、電話で予約し出発時間など確認しておく必要がある。事前に行き先をリクエストしておけば、現地の渡船店に予約を入れておいてくれる。その他、天気の状況や釣果などの適切な情報提供もしてくれるので隠岐が初めての人でも安心だ。
この日は午前5時出港。あれだけ広い七類の駐車場はすでに満車状態だ。これからフェリーが出港する時間ともなればまだまだ車が入ってくるだろうに、いったいどこに駐車するのだろうかと考えてしまう。やはり「海峡」を利用して正解だ。所要時間は約1時間30分。夏の海は穏やかで船に弱い私でも快適なクルージングだ。ハッチのフロアーに横になり、うとうとしているともう三度の港に着いていた。
目指すポイントは釣友がイサキを爆釣したというサカエガ崎」。5月にチヌを爆釣した「ハギリ」や「大神立岩」などの超一級磯を横目に通り過ぎ、さらに北側に位置するのが「サカエガ崎」である。周辺は「摩天崖」、「通天橋」など観光の名所が位置し、すぐそこに望むことができる。摩天崖の257mにもおよぶ絶壁は見なれている私たちでも「すごい」と言わせる壮絶なもだ。
磯は楽しいことがいっぱい
午前7時に渡礁したものの今回は夜釣りがメイン。それでもジッとしていられないので竿を振ってみるが、やはり餌取りの猛攻。ここは夜釣りに体力温存しておこうと竿を置いた。しかし、やっぱりジッとしていられない私たち2人。それならと今度は海パンに着替えて水中メガネとシュノーケル。こんなこともあろうかと夏の釣行はいつも用意している。夜釣りのポイントとなる周辺をシュノーケリングで観察。瀬の位置や溝、だいたいの水深が分かる。やはり磯から見るよりもかなり正確に状況をつかむことができる。それになんと言っても涼しくて気持ちがいい。
運動した後は腹ごしらえだ。弁当やカップラーメンなどいろいろ用意はしているが、それだけでは芸がない。磯には普段味わえないごちそうがたくさん付着しているのでこれをいただかない手はない。「フジツボ」、「ジンガサ」、「カメノテ」をバーナーで焼いて食べると適度な塩味でなんとも言えない。カキ落としでそぎ落とし、みそ汁にして食べても最高だ。
目の前には観光船がたくさんのお客を乗せて次々とやってくる。どこから来ているのだろうか、みんなに笑顔で手を振ってあげるのも地元釣り師の大切な務めではなかろうか。「今の子はかわいかったなー」などと、たわいもない会話に花が咲くのもこの開放感からだろうか。釣りだけではなく磯には楽しいことがいっぱいある。
午後はブルーシートで日陰を作り、波の音をBGMに、夕マズメまで昼寝をすることにした。普段の生活では考えられない、時間を止めていたいような一時だ。夢心地でいると、なんだかそわそわ落ち着かないやつが約1名。「小島さんまだ2時すヨ!なかなか時間が経ちませんね」と同行の石橋くん。日が暮れるのが待ち遠しくて、いてもたってもいられないのである。そんなこんなと楽しいやり取りがあって、待ちに待った夕マズメが近づいてきた。
待ちに待った夜釣り開始
夜釣りの仕掛けは、イサキ狙いといえどもいつ大ダイが来てもよいように図の太仕掛けをセットして釣り始めた。撒きエサはオキアミ生6キロにジャンボ4キロ、オキアミボイル1.5キロ加えて海水を少々入れた。これで6時間分。
水平線に太陽がかかったかいなや、今まであれだけいたスズメダイやコッパグレが姿を消した。すると早くも待望のイサキのアタリ。型は小さく20センチほどのウリボウズが姿を見せた。それでも昼と夜の魚の入れ替わり、何かを境に突然やってくるこの現象に自然の不思議を思わずにはいられない。日がどっぷり浸かった午後8時。ポツリ、ポツリと小型のイサキが食いつくものの、コンスタントなアタリが得られない。ウキ下を2ヒロから6ヒロとこまめに変えてはみるが良型も姿を見せない。潮は海に向かって右から左にかなり速い、風も手伝っているから仕掛けはアッという間に左の瀬にかかってじっくり仕掛けを流すことができない。苦戦だ。やや遠投気味に瀬際を流していた石橋くんに強いアタリが出た。2ヒロと浅めのウキ下で流していたにもかかわらず、ケミホタルが横滑りするように消し込まれた。太仕掛けにものを言わせて足下まで寄せるが、なかなか浮いてこない。午後9時、磯にぶり上げられたのは47センチの大型口太グレだった。「これはすごい」。釣り上げた本人が一番驚いた。石橋くんは、このほかにも同じポイントで35センチ級の口太グレを2匹釣り上げた。
私は、潮と同じ方向に流れる風を克服するために、2Bのガン玉を2段打ちにし潮上となる右沖にかなり遠投し、正面の海溝で勝負を掛けた。仕掛けを重たくするのは、早くタナを取ることと、潮流と風が同じ方向のため強い張りをかけながら流すためである。コンスタントとはいかないが、30センチから35センチのイサキが姿を見せ始めた。しかし入れ食い状態にはほど遠い。その入れ食い状態が、潮流の変化でやってきた。右から左に流れていた潮が逆に流れ出した。手前のサラシも手伝って右沖に浮かぶハナレに向かって仕掛けが流れだすと毎回アタリが出始めた。型もいい。40センチ近いババイサキも食いついてきた。ウキを消し込んでもハリに乗らないこともあるので、今度はガン玉をすべて取って完全フカセにし、ウキから下のハリスの部分を2ヒロ。ウキ止めなしのフリーにして流した。今の状況は潮流と風が程良く反対となるので、仕掛けの張りが自然とできる。張らず緩めずの状態で待っているとウキの反応に少し遅れて竿先にグーンと乗ってくるアタリ。手返しよくこのアタリを確実にキャッチして釣果を伸ばした。苦戦しながらも2人で一晩中竿を振って47匹のイサキを釣り上げた。13日は台風9号の影響で時化てくることを想定し午前6時に納竿とした。
本紙7月号で紹介した「ハギリ」でもそうであったが、過去のデータを見ても三度周辺の磯は南から北方向に流れる潮が本命のようである。8月上旬、一晩中イサキのアタリがあった釣友もずっとこの潮だったと言う。残暑はまだまだ厳しそうだが、9月の夜釣りもおもしろそうだ。